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グランドラインのとある島、天気は快晴、風は微風。
あらららぁ、お昼寝日和じゃないの。
小さなこの島に自転車を漕ぎ漕ぎやってきたのは今さっき。
額にかけたアイマスクを下したくなるのを堪えて、歩みを止めることはしない。
住人が百に満たないこの小さな島を長いコンパスで歩く男は、お目当てを探して周囲を見渡す。
視界を遮るほどの建造物もないこの島は、簡単に意中の人物を教えてくれた。

「クザンさーんっ!」

向こうもこちらに気付いたようで、少年は小さく短い腕を一生懸命に振ってくれる。
にこにこ笑ってくれちゃって。
おじさん嬉しいなあ。
駆け寄ってくる小さな姿にそう呟くと、おじさんの胸に飛び込んで来なさいとばかりにかがんで腕を広げてやる。が。

べちゃん

あと数メートルという所で、子供が見事にひっくり返る。

あーあーあー・・・

大きな一歩で近づき、ひょいと抱き上げてやれば、くりくりとした瞳が申し訳なさそうにへにゃりと下がる。

「・・・ころびました・・・」

「うん、見てたよ」

そりゃもうばっちりと、目の前で。
そう言って少年のエプロンをぱっぱと掃ってれば、ありがとうございます、とまたへにゃりと笑う。

では改めまして、

「こんにちは、クザンさん」

「はいこんにちは、ハルアちゃん」

お互いにぺこりと一礼しての挨拶。小さな子供と大きすぎる大人のやりとりは、はたから見ればずいぶん可愛らしくも可笑しなものだったが、当の二人は極めて真剣だったし、この挨拶は二人が初めて会った頃から変わらないものだった。


+++++++


二人が出会ったのはほんの一ヶ月前。
海軍大将青雉ことクザンが自転車で海を渡って見つけたのは、心地の良い気候の昼寝に適した島。
なんて島だったかな、と頭に海図を描くクザンだったが、本部で畜生また消えちゃったよあの大将!と慌てふためく部下たちのことはすっきりすっぱり頭から追い出していた。
よく日の当たる場所を探そうと歩いていた彼の足が、ぽてぽて歩く小さな姿にクリーンヒットするまで、クザンはこの島いいな、なんてことをぼうっと考えていた。

「ぎゃんっ」

自分の足に小さな衝撃と、地面に何かが倒れたような音。
あ、やっちゃった?
見れば自分の腰にも全く及ばないような少年がぽかんとした顔で尻餅をついている。
あらら可愛い子。
じゃなくて。

泣かれるかな、と思いながらもその小さな体を立たせてやる。
ごめんね、と声をかけようと膝をついて目線を合わせてやるが、クザンより先に子供が小さな口をぱかりと開いた。

「お、お怪我はありませんか!?」

んん、いやいや、こっちのセリフだよね。

「ごめんなさい、前をちゃんと見てなくて…」

なにこの子、俺より礼儀正しいかも。
すごいしょんぼりしてる・・・。

見た目は十歳か、もしくは更に下か。
綺麗な短い黒髪にダークブラウンの大きな瞳が光を受けてきらきら輝く。
両手を腹のあたりであわせて申し訳なさそうなその姿は、まるでどこかの従業員のようで。

「んー、こっちこそごめんね、おじさんもちゃんと前見てなかったから」

頭をぽんぽんと撫でてやると、瞳が驚いたように更に大きく開かれたが、そのまま撫でてやれば、へにゃっと顔をほころばせてくれる。

あらら、やっぱり可愛い。

短さのわりにふんわりとして触り心地の良い髪を撫で続けていると、子供は何かをはっと思い出したように顔を上げてくる。
ん?と手を止めてやると、背筋をしゃっきと伸ばす。髪がさらっと揺れた。



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