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どうしてこうなった。
いや本当に。

「ル、ルッチ・・・」
「ルッチ様・・・?」
「・・・・・」

いや、なんか答えろや!

スパンダムは、現在の状況に大変困っていた。
困っているうえに怒ってもいたし、更に羨ましくもあった。
もうわちゃくちゃである。

よし、ちょっと状況を整理しよう、そうしよう!
いつも通り書類に目を通して、給仕の一人が淹れたコーヒーを飲んで、思いっきりこぼした。書類に被害は無かったが、控えていた給仕からはまるで汚物を見るような目で見られた。あいつ減給にしてやろうか。

そんなことをしていたら、ハルアの淹れた茶が飲みたくて堪らなくなった。
って言うか顔が見たくなった。
指名して呼べばへにゃりと笑ってやって来るが、それ以外では全く目にすることがない。
どうやら給仕室にこもりっきりでいるようで、他の給仕たちにたいそう可愛がられているそうだ。

まあそんなこんなでハルアを指名してコーヒーを淹れるように連絡すれば、ほどなくしてこいつはやって来た。
首にしめていたリボンタイの歪みを直してやると、今度は照れたように笑う。
可愛いなあ、と素直に思うようになった。
もうとっくに諦めた。こいつ可愛い。

いつものように“いい子いい子”の淹れ方で淹れたコーヒーを飲みながらほのぼのしていると、(もちろん美味かったしこぼさなかった)扉からノックの音が。
今日帰還予定なのは誰だったかな、と思い返せば、ああ、あの男だった。

入れ、と声をかければ、思った通りの男が姿を現した。
コーヒーの香りを切り裂くように、鉄の匂いが鼻をつく。

「ロブ・ルッチ、帰還いたしました。」

手には書類。
任務が終わってすぐ来るのは良いが、書類より先にシャワーを優先して欲しかった。
ハルアに血を見せるのにも抵抗があった。
肩の鳩とネクタイ以外は真っ黒な姿は、分かりにくいが返り血を浴びている。
ぶっちゃけるとものすごく怖い。
扱いづらいし、あの目で睨まれれば心臓がぎゅっと悪い意味で苦しくなる。

そのロブ・ルッチが、だ。

部屋に入り、ちらりと控えていたハルアを見る。
こいつは任務帰りは、給仕に対してはいつもこうだから気に留めなかったのだが。
だからこそ驚いた。

視線をこちらに戻したルッチが、もう一度ハルアの方を振り返った。
え、二度見?
そこからは早かった。
つかつかとハルアに歩み寄り、腕を伸ばす。

待て、そいつはただの給仕で、手を出すな、何する気だ。
どれ一つ声にすることはできなかったが、冷や汗だけが頬を伝った。

「むあっ」

ぎゅむっと音がした。まさにぎゅむ、だった。
挟まれそうになった鳩のハットリが驚いたように飛び立ち、ポーッと鳴いた。
どうやら彼にも予想外だったらしい。

冷静沈着・冷徹なCP9最強の男が、十歳の少年を抱きしめていた。

何度でもいうぞ、どうしてこうなったあああああ!



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