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「こんにちは!」
ぺこっ!
うん、今のは絶対ぺこって聞こえた。擬音とかじゃなくて。
って言うかここにきて挨拶か。
「はいこんにちは、俺クザンってーの。よろしくね」
気が付いたら名乗っていた。
そうすれば、このあまり子供らしくない子供は、きっと自分にきちんと名乗ってくれるはずだと思ったから。
「クザンさん、ぼくはハルア、です」
どこか照れたように名乗ったハルアは、思った通りきちんと返してきた。
ハルアちゃんか、うん、ハルアくんよりハルアちゃんの方がいいや。
頭の中で反芻した名前は、持ち主に似て響きや字面さえ可愛らしく思える。
「クザンさん、良ければお茶でもどうでしょう。
ぼくのおうち、すぐそこなんです」
珍しいお客さんとの出会いに、乾杯でも
そう言って笑うハルアは、やっぱり自分よりもはるかによく出来た大人のようであった。
+++++++
そうそう、あの時のアップルティーは美味しかった。
出されたコーヒーを啜りながら、一ヶ月前の味を思い出す。
もちろん今日のコーヒーも美味しい。
一か月前のお茶会の後、また来てもいーい?と聞けば、ぱあっと瞳を輝かせて笑ってくれた。
そりゃ来るでしょ。だって、ねえ。
それからは週に三回は自転車で本部を抜け出した。
部下たちはその度に電電虫を鳴らせたが、無人のクザンの部屋からぷるぷると聞こえることに気づいてからはそれもしなくなった。
ちなみに、緊急時のためにつれている電電虫は、センゴクや他の大将たちにしか番号を教えていないお忍び用だ。
「クザンさん、おかわりどうですか?」
「お、ちょーだいちょーだい」
うちんとこの給仕が淹れるのより美味しいんだよね、とカップを差し出せば、たくさん教えてもらいましたから、とへにゃりと笑う。
ハルアの両親は大きな島で料理人をしていたらしく、金を貯めてマイホームを建てたのがこの小さな島だったらしい。
家に併設して喫茶店をはじめ、地元の人々からささやかに愛されていたのだとか。
そんな両親を乗せた船が沈んだのは、一年と少し前のことになる。
他の島に仕入れに向かった船は、大きな嵐に飲み込まれ、ほんの一部の助かった船員の話では、ハルアの両親は嵐の中、最後まで帰還を諦めていなかったそうだ。
島中の人間がハルアを引き取ろうと申し出たが、基本的に家事全般をこなすハルアはそれを断り、島中からの援助を受けながらも今に至る。
え、この子、本当に十歳?
親は?と聞いたクザンに、思い出話をするかのように語られたハルアのまだ短い人生は、子供にすればとんでもない波乱万丈であった。
もうたくさん泣きましたし、生きていかなきゃきっとお父さんとお母さんに怒られちゃいます。
クザンの目を見て言ったセリフは、一ヶ月たった今でも耳にはっきり残っている。
この話を聞いた時、クザンはある決心をしていた。
もういいかな、言ってみようかな・・・。
自分に慣れてもらうために、一ヶ月の時間をかけた。
(単にこの島が気に入った、という理由もあったが)
でも受け入れてくれるかなあ・・・
断られて拒絶なんてされた日には。
「おじさん立ち直れないかも」
「クザンさん?」
思わずこぼれた言葉をハルアが拾ってくれる。
にしても俺、なんか恋してるみたい。
・・・きっついなー・・・。
「なにか悩み事ですか?
僕でよければ聞きますよ!子供ですけどね」
いやいや、子供だけど、ほんと子供じゃないよね。
「ハルアちゃんは、協力してくれたりする?」
「クザンさんが悩んでるなら、ぼくに出来ることなら何だってしたいです」
「・・・何でも?」
「はい、何でも!」
嬉しいこと言ってくれるよね、この子は。
いつも怒っている部下たちに聞かせてあげたいくらい。
でも、そう言ってくれるなら。
「ハルアちゃんさあ」
「はい」
「俺んとこ、おいでよ
あ、ちょっと間違った、海軍おいでよ」
何でも、してくれるんでしょ?
一世一代のプロポーズ!「よ、喜んで・・・!」
「え、いいの!?」
「何でもするって言いましたもん」
「うん、そりゃそうだけどさ」
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