14-2 [ 29/101 ]
+++++++
『こちらは今日は少しあたたかくて気持ちが良いです。
塔にいる皆さんは変わらず元気ですし、もちろんぼくはいつも健康優良児です。
そちらの皆さんは病気や怪我はしていませんか?
余計な心配だとは思いますが、皆さんの無事を願っています。
追伸
本当は実物が良かったのですが、どうしてもこの島では見付けられませんでした。なので絵ですいません』
「・・・・」
「なんだあ?ルッチの奴、紙なんか抱きしめてどうしちまったんだ」
「放っておいてやれ、パウリー。あいつは熱烈な遠距離片思い中じゃ」
「な!は、破廉恥だ!!」
ハットリがエニエスロビーから返事を持って帰って来た。
ハルアは俺が手紙を出す度に返事をハットリに持たせてくれる。
一度、ここの名物の水水飴を添えたら美味しかったと喜んでくれたので、数十個買って添えたら、しばらくハットリが返事をしてくれなかった。
前回のものには花を添えようと思いつき、カンパニーの近くにあった花屋を覗いていたら、店のおやじが勝手に花言葉についてベラベラと語りだした。
適当に聞き流していたが、ふと聞こえた花言葉の一つに反応してしまい、小さな紫の花を少しだけ買って添えた。
「パウリー、昼休憩はまだ残ってるかっポー?」
「ああ?あと十分はあるな・・・ってどこ行くんだよ!?」
「すぐ戻るっポー!」
十分もあれば花屋に行って帰ってくるのは容易い。
カンパニーの門へと走り、出た途端に何やら集まっていた女たちから声をかけられるが、急いでいるとだけ腹話術で言い残してそのまま花屋へ走る。
店先でこの前のおやじが新聞を読んでいた。
「おやあ、その様子じゃパンジーの返事が来たかい」
「・・・これが届いた。クルッポー」
ハルアの手紙をずい、と差し出す。
文章の部分を指で隠し、文章の下に描かれていた紫の花の絵だけを見せる。
横に、小さく『ラベンダーです』と書かれていた。
「おお、ラベンダーかあ!健気なこと言うじゃねえか!」
「どういう花言葉なんだっポー?」
「まあまあ、今度はこれにしときな」
「・・・・」
差し出されたのは、いくつも小さな赤い実のついた小枝。
ナンテンだよ、と教えられたが初めて見るものだ。
訳も分からずとりあえず購入し、店内の壁にあった時計に目をやれば、直に昼休憩が終わってしまうことに気が付いた。
「船大工の兄ちゃん!そのナンテンはなあ、“私の愛は増すばかり”って意味がある!」
走り出した背中に、おやじの大きな声が届く。
言うんなら最初から言え。最初から。
「あと、ラベンダーはなあ!」
手紙に描かれた花を思い出し、思わず速度を落としてしまった。
「“あなたを待っています”だ!!」
きゅんっ
エニエスロビーにいた一年前は毎日感じていた懐かしい心臓の動き。
相変わらず自分には似合わない音で跳ねてくれた。
“あなたを待っています”?
あの子はそう言ってくれているのか。
この一年、手紙に毎回毎回『もう少し待っていてくれ。すぐに帰る』などと書いてしまう自分に。
そんな言葉を言ってくれるのか。
走っていたはずの足はとっくに動くのをやめていた。
ハルアの手紙を折らないようにそっと握り、唇を寄せてキスを一つ。
なるほど、“私の愛は増すばかり”か。
あのおやじはなかなかの男のようだ。
そして気付けば、いつの間にか昼休憩はとっくに終わっていた。
「長官、ちょっと相談が」
『あ?ブルーノか、どうした』
「・・・店が、忙しすぎる」
『はあ?』
「ルッチたち職人が来るせいか、やたらと名前が売れてしまったようだ。
・・・人を雇いたいんだが」
『・・・一般人は論外だよな・・・』
「でしょうね」
『・・・・』
「ハルアは元気ですか」
『え、そりゃあ・・・ってお前、まさか!!』
「このままでは情報収集どころではないんで」
『待て!そりゃそうだけど、お前っそれは』
「では頼みます」
がちゃん!!
海を渡って会いに来てよ「てめえすぐ戻るとか言っといて何してやがった!」
「お前には一生分からんことだっポー」
「はあ!?」
「お前には絶対会わせてやらん」
「何言ってんだ・・・って今地声!?」
「気のせいだっポー」
「ちょ!待て!もう一回!」
あとがき
どうも、水水飴が猛烈に食べたい銘です。
伝書鳩ハットリさんは毎日大変です(笑)
花言葉って可愛いですよね。全然知りませんけど。←
花言葉は調べて書きましたが、サイトさんや本によって少し異なるものもあるようなので、皆さんの知っているものと違うかもしれませんが、どうかご容赦を!
管理人:銘
[*prev] [next#]