05-2 [ 11/101 ]
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今回の任務もさして難しいものではなかった。
標的の周りを綿密に調べ上げ、最終的には暗殺。
SPを含めても二桁も殺していない。
黒いスーツは返り血でよごれていたが、この匂いは別段不快ではない。
シャワーも着替えも後回しに、長官に今回の書類を届けに行く。
扉をノックし室内に入ってみると、いつものコーヒーよりも数段上のものの匂いがした。
コーヒーらしい、といえば良いのか、とにかく以前のものよりかぐわしい。
それを自分が連れ帰った血の匂いがかき消してしまったことを少し惜しく思った。
いつもするように給仕の位置を確認する。
視線をやったのは一瞬だったが、相手はへにゃりと笑みを返してきた。
この自分に、である。
更に、相手は思っていたよりはるか低い位置に存在していた。
小さな、子供。
なんだこいつは。
そう思うと同時に、おもいきり殴られたような感覚に襲われる。
きゅん、と自分にはあまりにも似合わない音で心臓が跳ねた。
・・・可愛いらしい。
ちょっと待て、なんだと。
今自分は何を考えた?
自分の思考が何やら気味の悪いことになっていた。
なんだどうした、なにがどうなった。
ありえない、と自分に言い聞かせて、もう一度振り返ってみる。
きゅん
心臓が、また音を立てて跳ねた。
そこからは早かった。
子供に足早に歩み寄り、(剃を使いたかったが、なんとなく気がひけた)腕を伸ばす。
ぽかん、とこちらを見る子供に、また心臓が音を立てた。
「むあっ」
なんとも気の抜けた声が聞こえた。
驚いて飛び立った相棒には悪いが、それどころではない。
腕の中に閉じ込めた子供は、思っていたより更に小さかった。
服越しに伝わってくる体温は低目な自分よりもはるかに高いらしく、ああ、こいつは生きているのか、と当たり前のことを考えた。
きゅん、からどきん、に心臓の音が変わり、どんどん早くなっていく。
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
不整脈か、とも疑ってみたが、不思議な心地良さがある。
息を吸ってみると、仄かに林檎と太陽のような匂いがした。
匂いをたどれば、当然自分と密着した子供からだった。
甘いものは好まないが、この匂いは不快ではなく、むしろ嗅いでいたくなる。
そのままいくつか呼吸をすれば、あんなに早かった鼓動が落ち着いていく。
「ル、ルッチ・・・」
「ルッチ様・・・?」
「・・・・・」
声が、自分の名前を紡いだ。
可愛い。愛しい。もっともっと、このまま。
ああ、これが俗に言う
「長官」
「な、なんだ!」
「こいつは」
「きゅ、給仕のハルアだっ。さっさと離」
「長官」
「しやがれ・・・ってあぁ!?」
「俺にハルアを下さい」
“一目惚れ”というやつか。
第一印象から決めてました「アホかあああああああああああああ!!!!」
「え、ええええ、ルッチ様」
「ルッチでいい」
「え、えええええ・・・」
「聞けえええええ!」
「こいつはハットリという」
「は、鳩のハットリさん・・・!」
「だから聞けえええええええ!!!!」
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