池袋の町中を歩いていると、見知った後ろ姿が視界に入る。その姿を見たら少し機嫌が良くなり、気づかれないように近づいて、腕を掴んでこちらを向かせて話しかけた。
こうでもしないと、逃げちゃうしね、この子は。

「やぁ、正臣くん」
「い・・ざや、さん」

俺だと認識した時のこの嫌そうな顔、冷めた目、たまらないね。こんな顔されるといじめたくなるじゃないか。

「何か用ですか」
「いや、別に?ただ、君を見かけたから話しかけただけだよ」
「あぁ、そうですか。用がないなら帰ってもいいですよね、腕、離してください」
「嫌だ、って言ったら?」
「・・死ね」
「最近、俺に対して冷たくない?正臣くん」
「いつものことじゃないですか」
「ふーん」

腕を掴んでない方の腕で、正臣くんの腰を抱き寄せて顔を近づける。町中だということは俺には全く関係ない。

「ちょ、はな、せ!」
「ツンツンもいいけどさ、たまにはデレを見せてくれてもいいんじゃないかな?」
「誰がアンタなんかに・・っ」
「帝人くんのようなデレを、俺にも見せてくれない?」

耳元で囁くように言うと、彼は俺を突き飛ばした。違うな、正確にいうと、力を緩めて突き飛ばされてあけた、かな?

「√3点」
「・・は?」
「俺の中でのアンタの評価なんてこんなものですよ」

そう言って正臣くんは俺に背を向けて走り出した。



♂♀



「ってことがあったんだよ。どう思う?波江」
「あぁ、そう」

昨日起こった出来事を、助手であり唯一の社員の波江に語る。
だが、波江は全くの無関心。返答も至極適当だ。

「上司が悩んでるんだからさ、少しは相談にノってあげようとか思わないわけ?」
「あら、貴方悩んでたの?なら一つだけ言わせてもらうけれど、犯罪はよくないわ」
「いや、犯罪って君・・」
「良い年した大人が、いくら同じ性別といっても高校生にちょっかい出してるのよ?立派な犯罪じゃない」
「俺と正臣くんは愛し合ってるんだからいいんだよ」
「それが貴方の一方通行じゃないといいわね」
「・・・・」

波江の言うことが正論過ぎて心に痛い。



♂♀



「セルティは本当に可愛いなぁ!どうして皆この可愛さがわからないんだろう!こんなにも可愛くて、綺麗で、エロいのに!いや、でも僕以外がセルティの可愛らしさに気づいて惚れられても困るなぁ。なら僕だけがセルティの可愛さに気づいてればいいか!」
「心配しなくても、首なしを好きになる物好きな奴なんてお前くらいだよ」

あれから少しも波江に解決方法ではなく、辛辣な言葉を貰って相談相手が悪かったんだと思い、中学時代からの知り合いであり、一応友人の部類に入ると思われる岸谷新羅の家を訪ねた。
訪ねたのはいい。だけど、訪ねてきてからずっと首なしのことばかりでこちらの話を挟む隙ない。
ホントに、物好きだよね。・・同性を愛してる俺が言えることでもないかな。

「あぁ、ごめんよ!折角君が珍しく僕に相談しに来てくれてるのに!」
「・・相談相手を間違えたかと後悔してるよ」
「そんなことを言っても、君俺とその助手以外に相談できる相手いないだろう?友達いないんだから」
「うるさいな。そんなのお前もだろ」
「僕はセルティだけがいてくれれば充分さ!思えばセルティの可愛さは出会った時からずっと変わらないままで―・・・」

相談相手、本気で間違えた。


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