涙色の独占欲 沙樹と池袋の町中を歩く。今日も池袋は賑やかで、まるで静まることを知らないみたいだ。 「正臣」 「ん?」 「手、繋ごう?」 「う、うん」 差し出された左手に少し戸惑いながらも、右手を絡める。心臓がどくんどくんと、うるさいくらい鳴っているのを静めるために、空いている方の手を胸にあてて深呼吸をする。 「ふふ、緊張してるの?」 「なっ!そんなわけ、ないだろ!」 「顔赤いよ?」 「うっ!そ、そういうのは知らないふりをするもんなんだよ!」 「そうなの?」 「そうなの!」 「でも、臨也さんが・・」 「沙樹!」 一歩前に出て、沙樹の目を真っ直ぐ見つめる。 「今日はアイツの名前を出すのは禁止、って約束したろ!」 「そう、だったね。ごめん」 哀しそうに目を伏せる沙樹に、言葉が詰まる。沙樹に哀しい想いはさせたくないけど、折角のデートにアイツの名前を出してほしくない。 「正臣、歩き疲れたでしょ」 「へ、」 「そこの自販機で何か飲み物買ってくるから、ちょっと待ってて」 「あ、沙樹!」 俺の言葉を聞く前に、沙樹は走っていってしまった。どうしよう、気分悪くさせちゃったかな。 でも、嫌なんだ。沙樹の口からアイツの名前が出てくるのを聞くのは。 ぼーっと考え事をしていたら、如何にもな男達に 「ねぇー、お嬢ちゃん、暇ならオレらと遊ばね?」 「・・」 「あ、金なら心配いらないよー。オレらの奢りだからさ」 「・・」 「ねぇねぇ、遊ぼうってばー」 構ってられないと、無視していると段々相手の声色に怒りが含まれていくのがわかる。 だからといって、こういう奴らに何かを言っても無駄だ。無視をしてても諦めて立ち去ってくれる様子はない。 さて、どうしたもんかな、どうやってこいつらを退散させようかと考えていたら、とうとう怒りだして右腕を掴んできた。 「っ」 「おい、聞いてんのかよ!」 「かわいいからってあんま調子のってっと痛い目あわすよ?」 右腕を強く握られて痛みに顔を歪める。それを見てにやにやした笑みを浮かべて見てくるこいつらが気持ち悪くて仕方ない。 掴んできた手を外そうと頑張ってみるも、女の力で男に勝てるわけもなく中々手は外れない。外れるどころか更に強く掴んでくる。 そんなに強く握るんじゃねぇよ、痕つくだろ! 「さぁーて、どこいこうか?お嬢ちゃん」 そのまま腕を引っ張られて何処かに連れていかれそうになった瞬間、ぷしゅううという音と共に腕を掴んでる男に何かの液体が降りかかった。 「ぅわっ!なんだ!?」 「あ、ごめんなさい」 よく知っている、というかさっきまで聞いてた声がして、そっちを見ると開いたコーラを片手に持って、微笑みを浮かべている沙樹が立っていた。 「沙、樹・・?!」 「なにすんだてめえええ!!」 「フフ、すいません。でも、貴方達が悪いんですよ?」 「あ?」 「汚い手で、触るから」 俺の腕を掴んでいた手をはがして、そのままぐいっと引っ張られて、沙樹の胸の中に飛び込む形になりそのまま抱き締められた。 「この子、俺のなんで。汚い手で触らないでください」 微笑みを浮かべているはずの沙樹の目は、全く笑っていない。その目に恐怖したらしい男達は小さい悲鳴をあげて立ち去っていった。 逃げていった男達を見て、安堵する。沙樹が殴られたりしたらどうしよう、と不安に思ってたから、立ち去ってくれて助かった。 「正臣、ごめんね」 「な、なんで沙樹が謝るの・・!」 「だって、怖かったでしょ?」 「怖くなんか・・」 「嘘。震えてるよ」 ぎゅっと握られた手は微かに震えていて、あぁ、俺怖かったんだ、と他人事のように思った。 「正臣は、なんでも自分の中に溜め込んじゃうから不安だよ」 「そんなこと・・」 「あるよ。だから、ね?正臣」 「たまには、泣いてもいいんだよ?」 優しく微笑む沙樹を見て、溜まっていたらしい涙が流れた。 |