兼続の一人称は俺
大学生バカ2人






この、大雨の中を?


手をひいて





「政宗、それはナンセンスじゃないか?」
「生きるためにはセンスも扇も関係ない!」
「ハハ!ギャグはノーセンスだな!」

うっさいと言って冷蔵庫から顔を出した政宗は機嫌を損ねたのか首を横に曲げてポキリと鳴らすと眉毛に角度をつけて顔を怒らせたのだが、手入れに失敗したと言う彼の左の眉毛は半分から目尻に向かってなくなっていて少々笑える。

「それにしても怖いな…」
「は?」
「眉毛がない」
「案ずることはない」
「案じてはいない」
「最後の卵、儂が食べてしまおう…」
「申し訳ない。半分恵んでくだされ」

朝飯はご飯に卵を半分づつかけた温かい卵かけご飯と味噌汁になすの浅漬け。それに昨日買ったバックに詰まったサラダ。膨らまないがほどほどに満たされた土曜日の朝食の後、政宗は支度したら出かけるぞと言った。

「いや、それは本当にナンセンスだ」
「出かけなければ死ぬぞ!今夜と明日!」
「人間水さえあれば何とかなる…」
「ならやれ」
「と聞いたことがある」
「やってみんのか?儂はやらないぞ」
「そうだな。しょうがない、ここは謝ろう」

30分後に出るからなと言って使った二人分の食器をシンクに持って行く。この細やかな気遣い、良いと思います。政宗に後ろ姿にグッジョブ。

「おまえ喧嘩売ってるのか?」

間違えた。グッと親指を突き出して送った合図はそもそも手の向きが逆で死んでしまえの意味になってしまったらしい。恐ろしいな!目が後ろにもついているのか!






「あれ、政宗くん、眉毛があるぞ」
「この世の中にはアイブローと言う神器があるのじゃ」
「え、化粧?」
「顔が驚きすぎじゃ。結構するぞ、眉かいたりとか……ハイライト入れたり」
「ハイライト?」
「想像している野球のハイライトとは違うからな」

政宗の周りには結構いるらしく以前に教えてもらって、街に仲間と繰り出すときには必須だと言っている。幾分か印象がかわるらしい。ギャル系の身だしなみは大変だなと改めて見てみると政宗の姿はギャル達御用達のファッションビルで1059forMENから出てきましたと言ったような格好だ。そこまで足の指は入らないであろうよ(一度先端を踏んで足が入っていないか確かめたら無言で蹴りを入れられた)というつま先の出た靴に細身のダメージパンツがベーシックスタイル。冬寒くないか?

「ま、今はスーパーに行くだけだからな。眉だけ描いたわけよ」
「なんだか一人暮らしの女子みたいな発言だな」

もう黙れと軽く言われて湿気で重くなった扉を開けた。



ザアァァァァァ!!!!!!!!!



「政宗やめよう!この大雨はヤバい!」
「ええい、うるさい!飯の材料がないのじゃ!行くしかあるまい!」
「え!今なんていった!」
「行くぞ!儂らはスーパーに行くぞ!!!」

声が聞こえないほどの大雨の中買い物に行くという。天気予報で明日は雨が降りまーすと可愛らしい声で伝えていたお天気お姉さんには是非どれほどの雨なのかを伝えていただきたかった。思い返してみればアバウトすぎだろう!

「兼続!何故傘をささん!」
「さしてもささなくても同じ!ならば恵みの雨!体にしみこませるまで!」
「風邪ひくわ馬鹿!あきらめるなよ!熱くなれよ!」
「お米たべろよ!」
「よし!その調子だ!だから傘!させ!」

誰もいない道でギャーギャーと騒ぐ学生2人。絵柄が悲しい。道路は脇からあふれた雨水で洪水が起きて歩行道路にまでそれはあふれ出していた。泥水が靴に浸水してるし…ああもう不義。政宗の靴なんてさぞかし大変な事に……ええ、お洒落長靴?その発想はなかった!このおしゃれさんめ!


雨に降られて頭を伝って流れる水は生温いし、雨水を含んだTシャツが気持ち悪いのに心はすがすがしく、うっかり大雨が好きなのかと錯覚する。おかしいな、小学校の作文で晴天のすばらしさについて皆の前で発表したはずだ。


「うぉ!はまった!ッハハハハ足が抜けたわ!」
「ちょ、まて!嘘だろ!あり得るのかそんなことが!」
「レインブーツくそ!がっつりはまりおったわ馬鹿めが!ハハハハハ!」
「足が!ックククほら早くはかないと雨がたまり……ハハハハ!」
「笑いが止まらん!雨がもうたまっとるとかどんだけ豪雨なんじゃー!馬鹿めー!」
「雨の不義ヤロー!」

カッ!

「うぉぉ雷!龍神様がお怒りじゃ!すみませんでした!」
「義は決して屈しないがすみません!」

ヒィヒィと笑いながら泥に長靴を置き忘れて戻る政宗の姿を確認してその場にしゃがみ込む。腹筋が痛い。兼続ちょっとひっぱれ!と必死になって言う彼のそばに近づいて差しのばした手は手首をつかむが滑って掴めない。上体を崩したところだったがなんとか元に戻すと政宗!と名前を呼んで手を握った。ギュッと強く握ってグッとひっぱるとグヌと蛙がつぶれたような音を出た。長靴を履いた足が泥から出たようだ。すまぬな!と笑いを含んだ声の後に肩を掴まれてバランスをくずされないように片足立ちをして長靴にたまった雨水を出している。

「ああもう敗走しそうじゃ!」
「スーパーは目の前ですぞ政宗公!」
「ライフポイントがやばいのです兼続殿!」

軽く冗談を言うと何故か自然と政宗に手を伸ばした。なんじゃ?と首を傾ける彼に一瞬言葉を失い目を泳がす。自分が何をしたいのか分からないのだ彼が知るはずもないだろう。強引に手を引いて引きずるようにして歩き始める。

「わたくしが先導いたしましょう!」

手をつなぐな!恥ずかしいわ!と騒ぎ始める年下に政宗は泥に足を取られてしまうおっちょこちょいなところがあるので心配なんですお兄さんはとバカにしたように言うと顔を真っ赤にして、死ねこの海洋類と言われた。イカが好きな理由だけで海洋類呼ばわりだよ。全世界のイカ好きに謝れいますぐ謝れ。

握り返してくる握力に気をよくして側による政宗をちらりと確認する。うつむいたままの顔が赤いのはまだ怒っているせいだろう。

「なんじゃ」
「ん、かわいいなと思って」
「誰が!」

シャーシャー反撃してくる幼い頃から変わらない政宗に変わらない独特の情緒を感じてほっこりと暖かく、優しい気分になるこの感覚は常に貴重としている。俺だけがこの気持ちを占領したいと思うのは今までずっと一緒に育った故の由縁だろうさ。なんにせよいつかお互い離れる日々がくるはずだ。





つないだ手から伝わるぬくもりなんて実に小学校の頃迷子になった政宗を探し当てて家に連れ帰ったあの幼き日以来で、こんなに安心するものなら何者にも侵されずにずっと、ずっと彼と手を繋いでいたいと自然に思った。



「お前は昔からなまいきでかわいい、弟のような存在だよ」



困ったようにはにかむ政宗はそうかと言って首を横におって首の骨をポキリとならした。














しょうもない小話
化粧をして街を歩くギャル男さんがいると知って驚いたその日に実際に化粧したギャル男さんをみて感動したことがあります。ノーズシャドーで彫りを深くみせてアイシャドーを薄くつけて目尻あたりに深みを見せるそうです。あとパウダーとかでお肌をきれいに見せたり。気にしてるかたは気にするそうですね。美意識高いのは良いと思います。
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