暗くて気持ちの悪い兼続
政←兼とみせかけた政→→←兼









秋の昼下がり、気持ちの良い風にでも当たって届いたばかりの手紙を読もうと執務をキリの良いところまで終わらせると、客人がいるとの報せを受けて誰のことだろうと頭を巡らせた。約束をしているわけでもないなので思い当たる人物が浮かばない。そうこう考えていると女中が廊下からたまりかねたように儂を呼んだ。なんだと言うとその客人はしきりに政宗、政宗と名前を連呼しているらしいのでどちら様かと名前を尋ねても政宗としか言わないのだそうだ。あまりに不気味で男たちが刀を見せつけて脅しても驚きやせずにただただ政宗、政宗と言っているらしい。流石にその話には儂も背筋が寒くなったがそれと同時にいったい誰なのだろうという好奇心が湧き出てきて、そいつには思い当たる節があるのでどれ儂が出迎えてやろうと言って襖を開けた。誰なのでしょう?と聞いてきても後で教えてやるとはぐらかしてその妖怪がいる場所へと向かう。刀を見ても驚かない、逃げないと言うことは、儂の指示がないと刀を抜くことを禁じられているこの家の決まり事を知っている奴なのかもしれないなぁ。そんな事知っている奴は絞られる。はぁ、あいつは何をしているのか。

「兼続おまえか」
「政……宗」
「馬鹿め、名前くらい名乗ってやらんか」
「政宗…」

いつもの強い意志のこもった口調がないのに驚いた。ひどく焦燥しきった様子である。衣装は普段着ているような袴姿に深い紺色の羽織りで軽装だが、いかんせん顔が酷い。髪も結ばれておらずバサバサとあっちへいったりこっちへいったりしているしダラリと垂れ下がりまるで幽霊のようだ。家の者が制止するのを無視して少し様子の違う兼続に近づいて優しく声をかけてやる。

「どうしたのじゃ、顔が酷いぞ」
「………たまたま…通ったのだ。だから…」
「…たまたま?」

うん、と頷く兼続の顔が徐々に赤くなるのに気づかないふりをして後ろを振り向き女中に兼続のみを部屋に通すよう命じる。なに、大丈夫。とって食いはしないから。そう言うと着物の袖をクイとひっぱって耳元で山犬の顔をみて笑いたかっただけだからそこまでせずとも良いといっとくる。おまえこそ不義だなと軽口をたたいても何も言い返さないので、良いからいい子にして待っていろと強く言った。











「ちと待たせたか?」
「かなり待った」

自分の手で入れた茶を飲ませようと台所で作業したので時間がかかったのだと言えば、そんなもの…と言いかけて首を横に振るし、夕飯の支度をする台所に儂は邪魔だったかのぅと言ってもなにも言わない。静かな兼続は調子が狂うな。さて。

「突然どうした」

ビクリと肩を揺らしてこちらを伺う。そろそろだんまりは止めてくれないかな。儂の気は長くないのじゃ。

「何か用があったのだろう?」
「用事などなかった」
「はぁ?」
「用事などなかったはずだった」

笑うなよ、と筋の通った鼻をスンと鳴らしてこちらを見るので内容による、と頬杖を解いて姿勢を正す。

「文を書いていてな」

先ほど読もうと思っていた物か。

「書いていたらお前の顔が浮かばれてな、おかしいよな気づいたらここにいた」

これは……えーと。

「会いたかったということか?」
「誰が」
「いや、だからよ、お前が儂に」
「私がお前に?」

一瞬思い切り眉間にしわが寄り恐ろしいほどに見下されたような気がしたが、すぐに考え込むような顔になって数秒後にわかったぞ!と言って手を打った。

「夜もなかなか眠れなかったのは、寂しかったと言うことか!」
「………」
「歌人の詠む、袖を涙で濡らす心境がようやく解った気がするぞ!」
「そりゃあ、よかった」

おめでとうと手をたたき突如元気になった兼続にホッとしたがそれは見せずに、端から見ればさぞかしげんなりとしているであろう態度で首をグルリとまわすとそばにくるように言った。シュルと畳を四つん這いで這う姿は稚児にみえて、これは他の者には見せれぬなと苦笑する。戦場で白く憎たらしいほどに輝き先陣を切る猛者とはえらい違いの、目前で正座をする兼続をそっと引き寄せ胸で頭を抱えてやる。

「お前、本当に儂の事が好きなのじゃな」
「…………嫌いでは、ない。」
「それでも我を忘れてこちらまで来てしまうのだろう?益々愛おしくなったわ」

顔を上げさせてふれるだけの接吻をする。すぐに離れた唇は兼続のおねだりによって再度触れあうようになる。今度は深く。お互いの舌を食らいつくすくらい。押し倒して着物をはだけさせながら肌に吸いついていくと、目を潤ませながら名前を読んでくる。

「最近忙しくてな」
「……押しかけてすまない」
「謝ることではなかろう」

先程の己の態度を少しは反省しているのか、申し訳ない事をしたとばつの悪そうな顔をした彼の首筋に口付けを落とすとはぁと熱い息を吐いた。

「もう興奮するとは。おまえ自分でしなかったのか?」
「したさ。したがな、」

お前じゃないと満足しないのだ。

さも何でもないかのように言っているが恥ずかしいに決まっている。唇がかすかに震えているではないか。

「正直になったものだな」
「勘違いするなよ。今の私はいつもの私ではない」
「というと?」
「なんとなく頭がおかしいのだ。お前に会ったら何故だかぼうっとして思ってもいないことを……」
「ほう」

風邪か?と自分の額に手をやるこいつの無粋さにはいらだちを越えて呆れてくる。儂より長く生きてこれくらいのことも解らんのか。

「嬉しいのじゃ、それは」
「これが?胸が締め付けられて息ができぬくらいの痛みがか?」
「おまえ………重症だな」
「やはり風邪か?」
「馬鹿め。そうだな、恋患いだな」

え、と目を丸くする兼続に目一杯顔を近づけて最後に

「その病気は儂がお前を愛してやらんと治らないのじゃ」

と言った。兼続は満足したように(多分本人には自覚がないのだろう)笑うと手を背中に回してそれでは治してもらおうと吐息を吐くように呟いた。









ここまで堕とすのには色々と苦労したものよ。肩に顔をうずめた儂がほくそ笑んだのを奴が知ることはない。








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