采配続き
リーマン×ヒモ




アパート暮らしから高層マンション暮らしへとなって3週間。ここのマンションとにかく綺麗だ。この綺麗さは何事かときくと新築のマンションを買ったらしいとのこと。……ああそうかい。おまえはそんなに金持ちなのかい。


「いや、もちろんローンですけど…」
「そうか」


金曜日はハルヒコは幾分か早く帰るのだと言った。俺が腹をすかせているんじゃないかと心配になるらしい。馬鹿やろう、何歳だと思ってる。ついでに何年一人暮らしをしていると思っているのか。

(実際は何人かに養ってもらってたけれども)

ふと今までの生活を振り返ってみると一人きりでいる時間は短いといえば短いか……と、ダイニングにある落ち着いたブラウンのテーブルとセットで窓に近い椅子に座って窓に顔をむける。日が落ちかかっていて空の青と夕日の橙が混ざったどこか安心する色が好きで最近はこの時間ボーっとする。こんなにおちついて、のんびりした時間は今までなかったかもわからない。

部屋も暗くなってきたので電気を付けようと椅子から立ち上がるとガチャガチャ鍵を差し込む音が玄関からするのでついでに廊下の電気もつけた。

「おかえり」
「……」
「どうした」
「奥さんみたいだ」

右手でネクタイを緩めながら軽く笑うのではぁ?と眉をひそめて睨み返す。うーん、顔は大変な美形なんだよな。性格に難あり、と昔は思ったがそんな彼は今では営業マン。色々な人と話すのが面白いらしい。話すって、友達との会話のように言いやがって次元が違うだろうとか思うのはやっぱり俺の社会経験が浅いせいなのか?まぁいいや。思考を停止させる。

「飯はどうした?」
「会社から直行したからもちろん食べてないぜ」
「何にしようか」
「あー肉食いたい。肉はオレがつくるから、味噌汁と米頼んだ」
「おう」

何という家庭的なやりとり。でもこれが続くわけがない。早く終わらせないと。

「ハルヒコ」
「ん?」
「明日出て行くから」
「なんで?」

鍋に油をしきながら見向きもされずに答えられた。

「俺が……イヤだからだ」
「なにが?」
「……なんとなく」
「仕事につけないのに俺に養ってもらってるのがいやなんじゃないの?負い目感じた?あー、なんだ、自由にセックスできなくてたまった?」
「………ちが」
「じゃあ、なに?」

その通りだった。ハルヒコがバリバリに働いているのになにもしようとしない自分に負い目を感じていた。家に誘われたときは俺は俺のままで今までと寸分変わらぬ気持ちでいると思っていたのにいざ暮らしてみるとハルヒコと俺の差をまざまざと体感させられるのだ。

「遠慮なく抜いてもいいんだぜ?」
「……とにかく、明日…」
「駄目」
「な、んで!」
「オレから逃げてるから」
「……逃げてない」
「勝手に言ってろ、馬鹿」

どんな味?とか今までと変わらない口調で言ってくるハルヒコにいらだちを感じてシカトしてやった。我ながら幼稚園児じみた行動だとおもう。

「……!」

顔をしかめたハルヒコが俺が持っていたお玉を奪い取って小皿に味噌汁を注いだのだ。自棄になるとはコイツもガキくさい。そういうところは安心する。口に入れて味わっていたかと思うと不意に顔を近づけてきたので不思議に思っていると目を優しそうに細めて唇をあわせてきた。余りにびっくりして思わず口を開くと待ってましたと言わんばかりに舌を入れてくる。

「ふ……ぁ………ぅん」

舌を引きずり出されて甘噛みさせられたり思い切り吸われたりで体に甘いしびれが走る。長く口を合わせてくるハルヒコをやっとの思いで離して見上げればさっきと変わらずに優しそうに笑っている。

「は、なせよ!」
「どうだった?」
「………なにが」
「味噌汁」

オレ的には最高だけど、なんて普通にはなすもんだから俺は悔しくなって顔をそむける。

「なんでなにもいわねーかな。あ、もしかして」

思えば昔からおまえは勘の良い奴だった!お願いだから気づくな察するな!

「勃っちゃった、とか?」
「………ちが」

違うとつぶやいたつもりが何故か震えてなにも声がでない。これじゃあそうだと言わんばかりだ。

「固くしてるぜ?」

股間をまさぐられていよいよたっていられなくなった俺は地面に座り込んで俯く。恥ずかしさと快感がごちゃ混ぜになったこの赤い顔は見られたくない。

「おまえ堪え性ないのな。それとも最近抜いてなかったとか?抜くくらい好きかってやっていいのに」
「………人様の家………だし」
「はぁ?オレと2人で住んでんだよ、関係ないだろ」

この感覚が俺にはないんだよ!ほんっと、なんだそのジャイアン的思想は!

「あー、それともセックスじゃないとイけない質なのか?じゃあ」

ああ…やめろ、いわないでくれ、やめろ。

「抱いてやろうか?」




(いくら上から目線で言われようと、同情されようが別に良かった。おまえといられるその事実が胸を暖かくしてくれた。)

(友と信じているからこそこの汚らわしい身体は知られたくなかった。まさか一日を共にするとは思わなかったから、あの場で告白しただけだった。)


どんなに言い訳をしても、快楽を求めてうなずく自分の浅ましさに涙を浮かべた。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -