偽りの笑顔



作品を書き終わり家に閉じこもりっきりだった鶴屋先生がどうしてもホストクラブに行きたいのだが一人では心細いのでついてきてくれという頼みを飲んで俺も同行させてもらった。このホストクラブはイケメンぞろいということで有名らしい。階段を下りた先に受付があるということで階段を下りるのだが、落ち着いた雰囲気の中に感じる華やかさを肌で感じ取った俺はこれ以降(鶴屋先生の気まぐれで同行しないかぎりで、だが)一生縁がないものだなと思った。

「キョンくん!ちょっとなにしてるんだい!?」
「あ、すみません。ちょっと内装に見とれていまして…」

俺を呼ぶ先生の声にハッとして階段を下りた先で固まっていた足を動かして先生のもとにかけつかる。

「フフ、お気に召していただけましたか?」
「は…い」

男ですら見とれるきれいな顔に妖艶な笑顔を張り付けた男は「射月」という名前らしい。さっと自己紹介をしてもらい俺は胸ポケットから名刺を取り出す。

「ありがとうございます。えーと、」
「キョンってあだ名なんだよこの子!」
「なるほど」

なにがなるほどだ。キョンというあだ名を封印しようと思って何年たったことか。もちろん俺自身からこのあだ名を紹介することはないのだが、周囲の人間が俺に断りもなくホイホイと教えてしまうのだ。

「キョン君もご一緒でしょうか?」

おい、俺はお前にキョン君と呼んでいいと言った覚えはないぞ。

「うーん、この子は私の付き添いで来てくれただけだからなぁ…」
「アハハ、そうおっしゃらずに。ここは男性でも楽しんでいただける場所ですよ」
「じゃあキョン君も一緒に楽しもうっさ!」

お金は気にしなくていいからちょっと遊んできなよ!と笑顔で去っていく鶴屋先生。どうして俺を放置するんですか。放置するなら帰っていいですか。帰りますよ、いいですか帰りますからね!!!とは言えず俺は目を見開いて射月さんを見つめた。首をかしげた彼の口が優雅に動いた。

「どうかされましたか?」
「いや…」

いよいよ気まずくなったおれは顔をそむける。おお、見事な花瓶にこれまた見事なバラ。どうしましょう神様仏様先生。心細いからついてきてと普段お目にかかれないような照れた顔を見せたあの時の鶴屋先生はどこへ行かれたのか?わかっている。奥の部屋だ。否、今はそういうことではない。

「僕は鶴屋さんの所へ行ってきます。鶴屋様がたった今僕を指名されましたので。」

…いつの間に。仕事もこれくらい早くしていただければ編集長は常にご機嫌だと思います先生!!!

「先生が帰られるまで私はここを離れられないのですがどこか座っていられる場所はありますか?」
すみません、ご迷惑をかけますと低姿勢で聞いてみると
「そんなにかしこまらないで。そうですね、では貴方も楽しんでみてはいかがですか?初回のお客様はナンバーワンを指名できるのですがどうです?彼は大変魅力的な人でして男女問わず大変人気な方なんです。」
「はぁ、じゃあ良ければその方でお願いします。」
「かしこまりました」

少々お待ちくださいね、とにっこり笑うと彼は先生が向かった部屋の方へ歩いて行った。ナンバーワンの男が俺のような平平凡凡なサラリーマンと話したって退屈するだけじゃないだろうかね。そんな事を思って受付のデスクの端を指でなぞっているとシンプルな黒いスーツを身にまとった、俺とは180度雰囲気の違った男が歩いてきた。

「君がキョン君ね」
「はい。え、と」
「俺は春彦」
「春彦さんですね。すみません、俺なんかが指名してしまって」
「いいのいいの!楽しんでもらえればいいんですよそれで!さぁきてください!」

そこにいたのは超絶な美男子だった。ニコリと笑う顔は同性とは思えないほど素敵で男なのに俺は赤面してしまった。そうして春彦にエスコートされるまま俺は個室に案内してもらう。広くはないが物静かな雰囲気の漂う場所でホールの華やかとは違って俺には居心地の良いものだった。

「ここいいでしょ」
「はい、落ち着きますね」
「だろ?俺もここが一番好きなんですよ」
「春彦さんはもう少し派手なところが好きかなと思ってました。まぁただの第一印象ですが」
「おー、ハッキリ言いますね」

子供っぽく笑う美男子にドキッとしたのはもちろん彼が美男子に分類されるからだ。







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