大学生パロ
普通の人




彼は大人数の部屋の座席の中心に座っていた。
俺はといえば隅のほうで彼を視界に入れつつ酒を飲みながら旧友と懐かしいエピソードの数々を話している。今は同窓会。手にした煙草に周囲に驚かれたりと中高を共にした仲間との久々の会話は刺激的で心地良いものであった。そうこうしているうちにすっかり酔いがまわり寝始める者も出てきている中、自分の限界を知り気持ち良くなる程度に飲んでいた俺は酔い潰れた者の介抱をしていた。
「隣すわるぞ?」
「おう」
席を詰めて確認せずに返事を返した相手は彼だった。


涼宮ハルヒコと出会ったのは幼稚園の頃で高校卒業までずっと一緒だった。偶然にも今まで同じクラスだった。特別仲が良いわけではないと思っていたが、なんだかんだ長い間一緒だった事もあったのかお互い気さくに話せるような関係ではあったのだろう。高校三年間、俺は学校でハルヒコと共にする時間が一番長かった。

「久しぶりだな!」
「2年ぶりか?」
「おーおー!そんなになるか!」

てかお前煙草吸うのかよ!パッケージに手をやり、セブンスター…お前らしくねぇな!と満面の笑みを見せつけられて肺が締め付けられた感じがした。吸いすぎか、と首をかしげて「らしくないって、何を吸えば俺らしいんだ」とまゆをひそめて言うと「吸わなきゃいい」なんていう。一体お前になんの権限があるってんだ。灰皿の近くにあったオレンジジュースを口に含む。

「だってキスしたら苦いじゃんか」
「……は?」

何を言っているのだろうかこの男は。手にしたままのグラスの壁面の水滴が手を濡らす。

「って、いわれないか?」
「…誰にだよ」
「えー、付き合ってるやつとか」
「あ、ああ。いないから」

大丈夫だと言ってジュースを飲み干す。お前にとって軽い一言でも俺にとってはずっしりとパンチの効いた重い言葉でしかなかった。そのせいで自分でもなにが大丈夫なのかよくわからなくなっていた。動揺しているのは俺はハルヒコが好きだからか。いつからだろう、彼という人物に惹かれていて恋愛の対象として彼を見るようになったのは。彼に好意を持って話しかける連中に嫉妬するような、友愛を超えた愛情を持つようになったのは一体いつだったのか。かなうはずのない恋に蓋をしてきれいな思い出として心に留めておくと誓ったのは何年前だ。数多の記憶が頭を駆け巡ると押さえていた感情がどぅっとあふれ出した。


そう。


結局彼を視界に入れた時から胸の高鳴りが止んでいないのだ。感情に蓋をしたところであふれる想いが大きければ俺のキャパシティは限界を迎えるだろうよ。彼に対する愛は相当で今では好きだと伝えなかったと本気で後悔していたくらいだ。いつまでも彼を思って幻想を語るよりは粉々に砕かれてもいいから区切りをつけたいと思っていてもいた。そんな中、今日の同窓会に参加した。涼宮ハルヒコが出席すると聞いた。


「おまえは」
「ん?」
「いないのか」


その、付き合ってるやつとか。語尾が小さくなり、怪訝そうに見つめる彼から目をそらした自分を客観的に想像するのも恥ずかしい。彼が先にモーションを仕掛けてきたものだから俺としては非常にやりにくい状況になっていた。どのタイミングで彼に話を切り出そうか。これじゃあ無理か。


「いねーよ」
「なんでまた」

驚いた。お前がフリーだとは。


「だって好きなやついるから」
「へ?お前そんな純粋なやつだったか?」
「ひでぇ!元から純粋だ!俺は!」
「高校の時ひどかったじゃないか」

手当たりしだい女ひっかけてたよな。煙草のケースに手をかけながら横目で彼を見る。

「だって、相手が振り向いてくれなかったからさー」
「うわ。好きだって言ってやればよかったじゃないか」

自分の事は棚にあげて(まぁ好きになった奴が男というハンディキャップがあるからな。割愛だ割愛!)爽快に笑い飛ばしてやるとハルヒコも笑った。…この関係が気持ちがいい。これでまた何も言わず家に帰って自己嫌悪に陥るんだろうな。わかっちゃいるが今が幸せならそれにこしたことはない。…と考える自分にも現在進行形で自己嫌悪だ。最悪。とズボンのポケットにあるライターを手探りで探しているとハルヒコが肩をたたいた。顔を向けると視界はハルヒコの端正な顔だった。

「じゃあ、好きだ」
「え?」
「お前が好き」
「酔ってるのかおまえ?冗談だろ?」
「ン…酔ってる」

なんだ…びっくりした。自分が今何をしようとしたか忘れた。そうそう煙草。つけた火が顔を熱くするがその一方で心は冷えきっていった。つくづく簡単な野郎だな俺も。

「だからな、介抱して」
「……」
「な、いいだろ」
「え…」
「おまえやさしいもんな」


断れないよな。そう言ってハルヒコは俺にキスをした。





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