くろねこ商店街 次の日私は再び氷帝学園のある駅に降り立った。今日こそはあの傍若無人にストップをかけねば。また私はあることに気付いていた。あの男はパーティーの詳しい日時や集合場所を告げていない。つまり、私の否応は関係なく結局はあの氷帝学園に赴かせようとしているのだ。何の目的があるのかはこちらの知るところではないが、私は彼に行動を強いられているのである。 ◆ 駅から氷帝学園に向かうまでには商店街を通っていくことになる。どことなくレトロな雰囲気のそれは、地元の仲見世通りを彷彿させた。…微妙に活気がないところなんて特に。 ところがその商店街ががやつき始めたのは、向こう側から何やら騒がしい学生たちがやってきたからであった。ぴょんぴょんとせわしなく辺りを跳ね回る男の子と、呆れながらもそれを抑えようとしている男の子、そしてやたら大きな声で騒いでいる男の子……ん? 「あーー!!!」 大声で彼に指をさされ周りの注目を浴びた私。いっそ知らんぷりをしていたかったが、そういうわけにもいかない。なぜなら彼は電車でジュースを私にぶっかけた金髪に間違いなかったからだ。 「ね、ねえキミ苗字さんだよね?」 「何で名前…」 「お前昨日オートリに会ったろ。話聞いてるぜ」 「ああ、鳳くん…」 そう言ったおかっぱの男の子は、確か私は女の子だと思いこんでいた気がする。制服がズボンじゃなかったら未だに女の子だと思っていたかもしれない。 「ホントごめんね。大丈夫だった?」 「…大丈夫な訳ないじゃないですか。跡部さんにまで付き合わされてさぞかし大変だったでしょう」 キノコヘアーの彼には見覚えはないが、現場にはいたようだ。また、私の心配をしてくれたあたり彼もまたいい人そうだ。そう思って彼を見上げるとそっぽを向かれた。 「なあなあ、これから暇なら俺らとマック行かね?」 「おお、俺おごるC!」 「いやでも、」 「あ、ちなみに今日模試で部活なくなったから学校行っても跡部には会えないぜ」 「え、そうなの?」 まるで私が跡部さんに会いにきたような言い回しには語弊があると突っ込みたかったが、またしても彼を訪ねる目的は達成できないようだ。ならば彼らの誘いに乗っても良いかもしれない。ちょうどフィレオフィッシュが食べたかったところだったし。 ◆ 「何でこんなことに…」 ポタージュをすすりながらそうつぶやいたのは2年生の日吉くんだ。何でこんなことになったのか、私にもよくわからない。しかし一つだけ言えるのは、すべての元凶が金髪ー芥川くんにあるということだ。にも関わらず芥川くんは席につくとろくに会話にも参加せずに夢の世界へと旅立ってしまわれた。…ホント何なの。 「跡部のパーティーってメシ食い放題なんだぜ」 「え、マジで?」 「いいよな〜。俺らですら滅多に招待されないんだぜ」 「…何で招かれたのかな」 「何でってそりゃあ跡部が…」 トークの止まらない向日くんの言葉に日吉くんの咳ばらいが重なった。それを聞いて向日くんは慌てて口をつぐんだ。 「とにかくさ、パーティー楽しんでこいって!」 「いやだから私は、」 「跡部の知り合いならちょっとぐらいヘマしたって見逃してもらえるって」 「私知り合いじゃない…」 「…知り合ってはいるんじゃないですか?」 そんな会話をしながらフィレオフィッシュを味わっていると、いつの間にかいい時間になっていたので解散することになった。おごると豪語した芥川くんは終始爆睡していた。 「…で、明日こそは部活あるの?」 「ああ、あるぜ!で、結局断るのか?」 「もちろん」 「無事に帰ってこれるといいですね」 日吉くんの意味深な発言が気になるところだが、どちらにせよ跡部さんに会わなくてはならない。三人と別れてから、私は何が悲しくてよその中学校にこう何度も訪れなくてはならないのかと一人考えこんでいた。 0515 |