めまぐるしい変身 しばらくしてまた別の店員さんが「彼氏さんがお呼びですよ。どうぞこちらへ」と声をかけてきた。もう否定するのも面倒なのでこのショッピングモール内に限ってはキングの恋人ということでいいや。 「おお、きたか」 にやりと笑った跡部さんは、先程私が見ていたようなティーンズ向けのお店ではなく、なんだかフォーマルなお店の一角で女性用の洋服を漁っていた。何とも異様な光景である。そしてその内の何着かを私に向かって突き出した。 「ほら、さっさと試着してこい」 「え」 「この俺様が直々に選んでやったんだ。感謝するんだ、な!」 「ちょ、ちょっと…!」 シャーーッとカーテンが引かれ、あっという間に試着室に閉じ込められた私。両手には跡部さんチョイスの服がてんこ盛りになっている。…ますます逃げ場が無くなっていっているような気がする。 仕方なく着ていたスカートをすとん、と落とした。正直そろそろ濡れてしまっていた服から解放されたいところだったので、グッドタイミングではあった。しかし、 「な、なんなのこれは…」 まず一番上にあった服を手に取ってみたが、紫ベースのド派手な配色のそのドレス?はどう考えても私のような平凡な女子高生に釣り合う代物ではない。カーテン越しにそのようなことを訴えたが「いいから着てみろ」としか言わないので、とうとう私が折れて仕方なく肩のストラップに手をかけた。 ◆ 「…服に着られてんな」 「な…!だ、だから言って…!」 「ホラ、早く次の着ろ」 そう言ってまた跡部さんが素早くカーテンを閉める。この誰得な私の一人ファッションショーはいつまで続くのだろうか。服を見てため息、着用して鏡を見てため息。跡部さんの選んだ服はどれもパーティー用みたいな華美なもので、私とドレスはいわゆる月とスッポンのような関係であった。 もう、ジュースを浴びさせられた上にどうして自分の地味さを痛感させられる羽目にならなくてはならないのだろうか。 イライラしながらも手に取った7枚目の洋服は、これまでとは違い派手な装飾もなく、色も白一色で清潔感があり、それでいて値段のせいかどこか上品な雰囲気を醸し出していた。今までの洋服よりはシンプルな分、まだ私でも着られそうである。少し上昇した気分で袖に腕を通した。 ◆ 「…あ、あのどうでしょうか」 「………」 さっきまで私の姿を見るや否や罵倒を繰り返していた跡部さんが、なぜか腕を組み黙り込んでしまった。…これは期待して良いのだろうか?それとも「こんなシンプルな服でさえ似合わねえのかよ!」と呆れさせてしまっているのだろうか。 「…その服脱げ」 「!は、はい」 …どうやら後者だったようだ。私はしぶしぶ着ていた純白の洋服に手をかけた。これを脱いだらもう着てきた服を着てしまおう。これ以上みじめな気持ちになるくらいなら濡れた服で帰ったほうがまだマシだ。 着替えが終わりカーテンを開けると、跡部さんが手を伸ばした。一瞬首をかしげたが、どうやら大量の洋服を戻してきてくれるらしい。…私が洋服に釣り合うくらいの素敵なレディーになるまでおやすみなさい。 「入り口で待っていろ」 「あ、はい」 跡部さんにはきっとあんなドレスも霞むほど綺麗な人が合うんだろうな。もともと平凡な私が彼のような人と関わりをもつこと自体がおかしなことだったんだ。 0503 |