フリフリフリル 「悪かったな、服濡れちまっただろ」 「あ、いえ」 「詫びに新しい服を買ってやる」 「え?!いやそういうわけにも」 「いいから黙ってな」 これほどまでに駅のホームが似合わない人なんているのだろうか。私思うにこの人ちょっと浮き世離れしてるっていうか、もしかしたらとんでもなく偉い人なのでは…? そんな人に服を買ってもらうなんてとんでもない。しかし彼に逆らうことの方がもっととんでもないような気がしたので言われるがままに黙っていたら、「お前とは趣味が合うみてえだからな。一肌脱いでやろうじゃねーの」と笑っていた。あれですか例のハーゲンダッツなんちゃらってやつですか。どう考えても勘違いなんだけどそう言い出す勇気もなかった。 ◆ 私の手を引く彼は、駅前にある巨大なショッピングモールに入って行った。自分の最寄り駅のショッピングモールだ。飽きるほど来店しているはずなのだが、感じる違和感。店内に入った瞬間その違和感が明確なものになった。なぜなら、 「人が…いない……?」 正確には客がいなかった。店員さんはいつも通りの笑顔を貼付けているし、店内は眩しいほど明るく、けたたましく鳴る音楽も耳慣れたものだ。しかし客がいない。誰もいない。 「当たり前だろ。俺様が貸し切ったんだからな」 「か、かしきり」 「これで気兼ねなく服を見れるだろ?」 …別に他のお客さんがいても気兼ねなく服を見れるんですけど。店員さんのいらっしゃっいませの声に片手を軽く上げて応じる彼を見上げる。 「…あなた、何者…?」 「アーン?決まってんだろ、王様だ」 「………それであの、キングさん」 「ハッハッハー!確かに俺は王様だが、名前は跡部景吾ってんだ。そこ間違えんなよ」 なんかもうやだこの人。たぶん私とは馬が合わないんだろう。でもここまで来ちゃったらもう逃げられない。せっかく服を買ってくれると申し出てくれてるんだから、高い服をねだってやろうかとか思ってしまう自分の性格の悪さがちょっと嫌いだ。 ◆ 「…何だその地味な服は」 ティーンズ向けのお店をまわり、気になったブラウスとキュロットを見せると跡部さんはそう言って眉をひそめた。うーん、自分のセンスを全否定されるのってなかなか堪えるよね。たとえそれが世間知らずのキングだったとしてもだ。もう一度選んできた服を見てみるけれど、軽くフリルやリボンなどの装飾が施されていて何とも可愛らしい。しかし跡部さんはそれらの服を元の場所に戻してしまった。 「ちょっと待ってろ」 そう言って広いお店のどこかに消えていってしまったので仕方なくその辺の洋服を見て回っていると、さりげなく店員さんが「素敵な彼氏さんですね」とにこにこしながら寄ってきたので、やんわりと否定しておいた。そんな…キングの下僕ならともかく恋人なんて…ちょっと……。 0501 |