焦っていた。鳳にアルバムを返した次の朝、朝一で登校してコートに入ったがいない。朝練中も必死でマネージャー軍団をかきわけてみたがいない。姿が見えないだけじゃない。彼女が、いやもしくは幽霊がもつ固有の気配がどこからも感じられなくなっていたのだ。 不安で不安で仕方なかった。確かに彼女が現世に留まっていたのは良いことではないのかもしれないが、彼女が幸せになるのならばそれで良かったはずだ。じゃあ何故急に。それとも俺の知らないところで苗字が幸せになったとでもいうのか? (…納得いかないな) 考えろ。やはりまだどこかにいるはずだ。こんなにもいろいろしてやった俺に何も言わずに去っていくような情のないやつだったか? 「おい日吉!何探してんだ?」 「大したものじゃありませんよ」 考えろ。あいつの行きそうなところはどこだ?あいつの好きな場所はどこだ?あいつの好きなものはなんだ?あいつの好きな… 「日吉、どうかした?」 「………鳳」 振り返るとそこには鳳が困り顔で突っ立っていた。そうだ、苗字はひたむきに鳳を想っていたじゃないか。 「探し物?手伝うよ」 「…いや、大丈夫だ」 「…このあいだはごめん」 「……俺の方こそ変なこと言って悪かった」 ああ、これから部活をやっていく仲間として気まずくならなくて良かったとは思った。こいつはそういうやつだ。 「俺を元気づけようとしてくれたんだろ?」 「…まあ、な」 ひとまずそういうことにしておこうか。俺だってどんな結果を望んでいたかよくわからない。そこまで考えてふと俺はあの得も言われぬ気配を感じとった。 「でも、もう大丈夫。全部置いてきたから」 鳳の言葉はあまり耳に入ってこなかった。なぜなら間違えなく彼の隣には俺が探し続けていた苗字の姿があったからだ。何度も瞬きを繰り返してみたがその姿は消えることはなかった。相変わらず鳳とは全く目が合わない。しかし苗字は俺に何かを必死に伝えようとしていたが、なぜかその声は音にならなかった。だが、最後の口の動きだけはわかった。 『ありがとう』 そう言い残すと気配ごと苗字の姿がふっと消えた。鳳は相変わらず笑みをたたえている。そして俺は恐らくこれで正解なのだと、深く頷いた。 0417 |