天までつづく梯子 | ナノ
次の日珍しく申し訳なさそうな顔をした日吉が例のアルバムを突き出してきた。そのまま何も言わずに去ってしまったから、昨日は言いすぎた、という弁明をすることも叶わなかった。日吉だって名前には世話を焼いてもらったはずだ。何か理由があったのかもしれないと、冷静になってから思い始めていたのだ。まあ日吉が霊的なものに興味をもっているのは存知していたが、まさか名前に対してもそういう目で見ていたとは思わなかった。
返ってきてしまったアルバムにおかえり、と小さくつぶやきを落とした。やはりこれは俺が持っているべきものなのかもしれない。ただ部活にだけは出ようと、そう決めた。あそこが俺の居場所みたいだ。名前にとっても、そうだろう?
その日俺はアルバムを胸に抱いて泥のように眠った。涙は出なかった。



白い白い白い青い青い青いひたすらにつづく空間に俺は立っていた。辺りを見回すけれど何もない。両手には抱いて眠っていたあのアルバムの感覚が残っていた。

「う、わ」

一歩踏み出そうとしたところで足元にある何かに躓き危うく転びそうになった。…近くに誰もいなくて良かった。情けない姿、名前にはあまり見られたくない。俺の進路を妨げた物体とは。伸びきった身体を屈めてそれを見つめると、それは俺の良く知っている物だった。というか、さっきまでこの手の中にあったアルバムそのものだった。
おもむろにページをめくると、やっぱりそこには笑顔の名前がたくさんいた。

「あっ」

急に風が吹いて、最後の方に貼らずに挟んでいた何枚かの写真がその風に煽られた。ゆらゆらと風は名前を乗せて北へ向かう。早くしなければ、間に合わなくなる前に、失ってしまう前に、追いかけなくちゃ。



風上に向かって進んでいるうちに、俺は首を傾げ始めた。見渡す限り何もなかったはずの不思議な空間だったが、遠くにひっそりと何かが佇んでいるように見える。あれは何だ?幸いにもそれは俺の進行方向にあるようだから、正体を確かめに行くこともできるみたいだ。よし。
どこまでも白くて透けてしまいそうで、それでいて掴みどころのないこの空間は、どことなく名前に似ている。そんなことを考えながら歩いているうちに、いつの間にか風は止んでいた。そして件の物体の真下まで辿り着いたようだった。思い描いていたよりずっとずっと大きかったそれは、飄々とした様子でそびえ立つ巨大な梯子だった。とろりとした空色の塗料で塗られたような、そんな色をしていた。



0410

えらく抽象的になってしまった…もうしばらくお付き合いください。