朝起きてご飯を食べて学校に行って授業を受ける。学校から帰ってご飯を食べて、布団に入って幸せな夢を見る。そんな繰り返される日常生活が私の中からぽっかりと失われていた。長太郎のいない部活動に出て調子の悪い皆に励ましの声をかけて回って、気付けばまた部活に出ていて、今思い返してみれば本当に部活以外の生活が忽然と消え去っていた。 それというのに何も不審に思わずに過ごしてきた。そんな自分にぞくりとした。 「苗字」 そして自分が“死んでいる”と意識した次の日から、日吉くんと話をすることができた。どうやら私は正しく幽霊となったらしい。…おそらく日吉くんは霊感があるのだろう。 日吉くんは私を怖がることも、なかったことにしようともしなかった。久しぶりに人と向かい合って話をしたらそれだけで涙が溢れた。 私の名前を呼ぶ日吉くんの瞳は同情で満ちていたけれど、確かに私を映していた。…長太郎と目が合うことはなかった。 ◆ 「クソクソ!あーもうどうしてこう…」 「…岳人、ちっとは落ち着いたらどうや」 「忍足先輩は向日先輩のことよろしくお願いしますね」 「またレギュラー外されちゃたまんねえぜっ」 「宍戸先輩が誰よりも努力しているの知ってますよ」 「名前ちゃんいねーとつまんないC〜…」 「ジロー先輩、眠くても機嫌悪くてもちゃんと部活来て下さいね」 「…次の大会まで……」 「部長、部長はもっと皆に頼っていいんですよ」 「ウス」 「樺地くんいつもありがとう」 「………」 「…長、太郎」 いまいち調子の出ない様子の皆に順番に声をかけて回った。珍しく皆の輪から離れて、一人でネットに向かってボールを打つ長太郎にも同じように声をかけようとして動きが止まる。首にかけていたタオルで額の汗を拭った長太郎はとても険しい面持ちで、まるで別人のように見えた。 「ハァ…」 ため息をついて何か思案しているようだ。自惚れかもしれないけれど、もし私の死が彼をこんなに気落ちさせてしまっているのだとしたら、とてもやりきれない。 「ねえ長太郎、私のこと忘れるって言ったじゃない」 「名前…」 「私、長太郎に幸せになってほしいんだよ…?」 「…駄目だ。忘れるって決めたばかりなのに」 「そんな顔しないでよ…」 本当は私だって忘れてほしいなんて思ってないよ。 声に出したとしてもこの声が長太郎に届かないのはわかってる。でも、こんな自分勝手な思いを口に出すことはできなかった。 「…こんなところで何やってるんだ」 「日吉…」 長太郎は日吉くんに返事を返したけれど、日吉くんの目はこちらを見ていた。私に話しかけているのかもしれない。 「情けないよな。うんわかってるんだ。…俺自分でも思ってた以上に名前のこと好きだったみたい」 「私も長太郎が大好きだったよ!」 「でもその声はもう届かない、だろ?」 否、日吉くんは私たち二人に向かって話しているのかもしれない。大切なものになくしてから気付いた、哀れな私たちに。 声、枯れそうだ。 0329 |