君は脳みそを使って考えたことがあるのかい? | ナノ
確かに最後のメールで告げられた「好きだ」という言葉には首をかしげたけれど、私は確かに芥川慈郎とメールしていたはずだった。

「…俺こんなの送ってないC」
「……」

言葉が出なかった。ジロくんに悪意がなさそうなのが逆に堪える。じゃあ誰に非があるって言うの?特に意味もなくふと彼の向かいに座る丸井を見る。…無意識に助けを求めていたのかもしれない。

「…丸、井?」

丸井の様子がおかしい。うつむき加減だったからよくわからないけれど、顔は真っ青でうっすらと冷や汗すらかいているように見えた。自信家で自称天才の丸井のこんな姿初めて見た。丸井は私に声をかけられるとはっとして顔を上げた。ジロくんも不思議そうにして彼を見ている。

「具合悪いの?」
「…悪い、俺帰る」
「丸井!」

これはただ事ではない。鞄を持ちいきなり出口に向かって行ってしまった丸井を慌てて追う。咄嗟に「あれ、丸井の分のケーキもジロくんが払わなきゃいけないのかな」なんて思ったけれど、後ろを振り返るとまるでチャンスを今か今かと待ち構えていたかのような立海のおねえさまたちに囲まれ戸惑っているジロくんの様子が見えたので、ちょっとかわいそうだけどあの様子なら誰かがケーキぐらいおごってくれそうだなんて思ってしまった。



ファミレスの扉に飛び付きながらも、私は丸井に追いつくことはできないだろうなと思い始めた。普段の様子からはあまり結び付かないが、彼はあの王者立海テニス部のレギュラーなのだ。帰宅部の女子の足がかなうものか。
しかし予想とは違い、外に出た瞬間赤い頭を捉えることができた。ふらりふらりと覚束ない足取りで歩く丸井は、普段より何だか小さく見えた。声をかけたら逃げられてしまうかもしれない。その場合、彼に追いつくことはできない。だから私はあえて声はかけずに、早歩きで丸井に近付いていった。



「ねえ君この間立海の試合見に来てた子だよね?」
「私知ってる!氷帝レギュラーの芥川くんでしょ!?」
「えー、じゃあテニス強いんだあ」
「丸井くんと友達なの?」

矢継ぎ早に質問が飛び交うけど無視。今はいろいろ考えんのめんどいC。
名前ちゃんってわけわかんねーや。だってさ、「やっぱりアドレス教えたくないし、今度あっても他人のフリしてほしい」なんて言ってきたくせにさ。俺そうやって丸井くんから聞いたときマジマジ傷付いたCー。
だから言った通り知らないフリしてあげたのに、傷付いた顔なんかしちゃってるから今度は俺が悪いみたいになってる。挙げ句の果てに丸井くん出て行っちゃうC、名前ちゃんも追いかけてっちゃうC。なんだよあの二人付き合ってんのかよ。

「…つまんねえ」

机に突っ伏すと、女の子たちの声が少し遠くなった気がした。相変わらず丸井くんがカッコEとかなんとかって話をしてる。確かに丸井くんはマジマジカッコEけど。
ねえもう俺とか丸井くんの話はEからさ、俺がつまんないって言ってんだからなんか楽しいことしてよ。俺に興味あるなら俺の話も聞いてよ。
…そういや名前ちゃんは勉強中なのにニコニコしながらずーっと俺の話聞いててくれてたなあ、なんて考えているうちに俺は眠りについていた。



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