可愛らしい内装のそのファミレスの扉を開けると、これまた可愛らしいコスチュームに身を包んだウェイトレスが私を出迎えた。 彼女がよく通る声で「いらっしゃいませ、お一人ですか?」と尋ねると、入口付近に座っていた立海生の視線がこちらに集まる。明らかに「こいつ一人でファミレスかよ」とでも言いたそうな目に耐え切れず、「あ、その待ち合わせで」と私が言うと「ああ、失礼しました」とウェイトレスが道を空けてくれる。一方立海生は今度は「なんだよつまんないな」といった態度で再び食事に集中しはじめた。 ざわめく店内を小走りで通り抜け、目当ての人物を探す。真っ赤な髪と金ぴかの髪は、色鮮やかな店内でも際立っていた。その証拠に、彼らの周りに座る立海の女生徒たちがしきりにそちらをちらちら見ている。 「丸井!」 「……苗字?」 本当は“ジロくん”と呼びたかったんだけど、直接会うのは二回目だから馴れ馴れしいかな?と考え自粛。そして私は後にこの行動が正しかったことを知る。 丸井は大きな目を真ん丸にして立ち上がる。そんなに驚かれるとは思っていなかったので怯みながらも、いまだにこちらに背を向けている金髪の少年が気になって仕方がない。…うわあジロくんだ本物だ。 「ジロ、くん」 「………おめえ誰だ?」 一瞬堪えたけれど、顔を覚えていてくれている保証はなかったので何とか耐えた。次の言葉をかければジロくんは「ああ名前ちゃんか!」なんてにこにこしながら私の名前を呼んでくれると、今度は確信があった。 「名前だよ、今メールしてた」 ジロくんはすぐには反応を示さなかった。…少し忘れっぽいのかもしれないと思うことにした。向かいの席で丸井が息をのんだ。馬鹿だなあ、何であいつが緊張してるの? 「…ごめんちょっと思い出せないや〜。てか俺メールなんてしてなかったC」 「…え、でも私」 「苗字、」 丸井が私を呼んだけれどどういう意図で呼んだのかはわからない。 携帯をブレザーのポケットから取り出し今までに受信したジローくんからのメールを彼に見せた。 あそこのケーキはおいしいとか、今度ポッキーの新作が期間限定で出るとか、数学が難しすぎるとか、確かに今思い返せばくだらない話しかしていなかったかもしれない。 でもそのメールの数々で私は芥川慈郎という人間を知った。メールは感情が伝わりにくいとか言うけれど、ジロくんからのメールには色があった。不思議と一喜一憂する様子が目に浮かんだ。それなのに、 「…俺こんなの送ってないC」 全部なかったことになんて今更できるのかな。たとえ私が恋したのがメールの中の彼だったとしても、それは確かに芥川慈郎だったはずなのに。 それを否定されてしまったら私は誰に恋すればいいの? 0220 |