君は脳みそを使って考えたことがあるのかい? | ナノ
私がジロくんにメールを送ったのは、次の日の晩のことだった。その日のうちにメールしなかったのは丸井とのテニスで疲れておよそ眠ってしまっているんじゃないかと思ったからだ。
名前と「登録よろしくね」とだけ書いたメールに返ってきたのは「シクヨロ!昨日メール待ってたんだよ」という返事だった。
シクヨロってなんか丸井みたいだ。さすが丸井のファン。それに私のメールを待ってくれていたとは予想外。だって絶対寝てると思ったんだもん。
それからしばらくやり取りをして、日を跨いだ頃ようやく「おやすみ」と告げられた。

「なんだ、起きてられるんじゃん」

ファーストコンタクトが彼の寝姿だったためか、芥川慈郎=睡眠という方程式がどうやら過剰に頭に残りすぎてしまったらしい。



「ねえねえ見て丸井!」
「ああ?」

朝登校してすぐにその液晶画面を見せる。

「『今度丸井くんとテニスしにそっち行くとき連絡するね』?…ジロくんからか」
「すごくない?超仲良くない?私に会いに来てくれるんだって!」
「俺のついでだろぃ」

萎える発言ばかりする丸井を一突き。まあ確かにそうかもしれないけど、それでもジロくんはわざわざテニスもできない私に会ってくれると言うんだからこれは嬉しい。もちろん私もあの天使をもう一度拝みたいところだった。
メールのやりとりの中で、ジロくんは東京の学校に通っていることが判明したのが今から3日前ほどのことだった。どうりで見ない制服だと思ったら。じゃあなかなか会えないなあと落ち込む私に落とされた爆弾が昨晩のやりとりの中でのその一言だった。
ああもうジロくんがいるだけで私どんなことでも数学の課題でも科学のレポートでも頑張れる気がするよ。ジャッカルくんが。
浮かれて未だに受信メールの画面を見ていたら、後ろから丸めたノートで背中をたたかれた。

「いったい!!」
「仕返しだろぃ」
「………丸井?」

後ろを振り向いた瞬間、見慣れたはずの赤髪の男に違和感。何だろう、上手く言えないけど顔が違うみたいな…?
いつも私に見せないようなその表情には何か理由があるに違いない、と何かあったのかと尋ねてみても「何でもねえよ」の一点張り。テニスが思うようにいかないのかもしれない。あるいはジャッカルくんと喧嘩したのかもしれない。はたまた女の子にフラれたのかもしれない。どちらにせよ、私が首を突っ込むべきところではないのでおとなしくしていよう。

「…お前ジロくんに惚れた?」
「……私?」

確かにジロくんともっと仲良くなりたいとか早く会いたいとは思うけれど、これを恋だと判断できるほど私は経験豊富ではない。でも一人の人間としてジロくんを特別に好いていることは断言できた。

「ジロくんのこと好きだよ」

また、この会話の流れでそれがどんな意味をもつのかどうか判断できるほど、私は経験豊富ではなかった。


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