「ずっと好きだった」 ぽつんと漏れたその一言に私は固まらざるを得なかった。丸井が私を好きなんて。そんな素振り今まで全然見せなかったじゃない。 丸井は息をゆっくり吐くと、ようやく私を腕の中から解放した。久しぶりに丸井の顔を見た気がしてしまう。 「顔真っ赤…」 「…、黙ってろぃ」 思わず漏れ出た心の声に悪態をつかれた。私はどうしてもまだ客観的にしか見れておらず、そんな反応をする丸井にこいつ本当に私のこと好きだったのか、なんて思っていたものだった。 「私のアドレスなんて言ってくれれば交換したのに」 「…だってさ」 「やっぱ馬鹿だよね丸井。普通に考えればわかるでしょー」 「いや、あの、…これ言っても引かない?」 「今更」 ほんと、今更だ。丸井はもうすでに大分やっちゃってると思う。それでも嫌悪感を覚えないほどには私と丸井は親しかったのだ。 「ジロくんとお前良い感じだったから邪魔してやろうと思った」 「…は?!」 「だからどうでもいいメールしてお前の興味ジロくんから逸らそうとしたのに好きになったとか言いやがるし」 「それは…」 確かにそんなことも言った気がするけれど、あの時はジロくんを一人の人間として純粋に好いていただけだ。正直今だってジロくんが好きかと言われてすぐに頷けない。 「お前が俺のこと見てくれないから、せめてお前に彼氏なんかつくらせねえって思ってた」 「丸井…」 「…でも今は違う」 真っすぐに私に向き合った丸井は、私より少しだけ背が高くて、実はとんでもなく重いパワーリストをいつも付けてて、髪の毛赤くしちゃったりしてるいつもの丸井だった。 「お前とジロくんが付き合うのは嫌だけど、自分の気持ち正直に言えないのが一番キツいって気付いたんだ」 私が好きだったのはメールの中の芥川慈郎だった。でもそれが本当は丸井でしたなんて言われちゃって、ますます私の恋心は迷宮入りしてしまった。 でも一つだけ言えるのは、丸井ともジロくんともまず友達としてちゃんとやり直したいってこと。幼い私たちにはそれで十分でしょ?偽者のジロくんでも偽者の丸井でもなく、本当の彼らと一緒にケーキを食べたい。メールがしたい。勉強会だってしたい。 「付き合ってとは言わねえよ。けどさ、殴ってもいいから…俺のこと許してくれよ」 不安そうに丸井の瞳が揺らいだ。私にはその手をとる選択肢しかないっていうのにね。 私が丸井の手を握って微笑むと、丸井は再び私にがばっと抱き着いた。 「苗字、アドレス教えて」 「切り替え早!」 「…駄目?」 もう、そんな顔するなんて卑怯だ。でもこの顔を独り占めできるのなら、丸井の彼女になるのも悪くないかもしれないなあ。 「あ!!丸井くんと名前ちゃん見っけた!!!何やってんだよ〜!」 「!!」 ファミレスのお姉さんたちから逃れてきたジロくんの姿が見えて、とっさに身体を離す。 「俺仲間外れにすんなよ〜!」 「わ、悪いジロくん」 「ねえねえ名前ちゃん」 ジロくんが私にくるりと向き直ってポケットから携帯を取り出した。 「アドレス交換しよ!」 私は二人に言うつもりで「いいよ!」と笑った。 ◆ 「はい、赤外線送信準備できたよ」 ここに向けてね、と私の携帯の背面の黒い部分を指差すと、同時に二台の携帯が向けられた。 「…ジロくん、俺が先だろぃ」 「A〜!!俺前から名前ちゃんとアドレス交換するって約束してたC〜!」 「はいはい全件送信にするから」 「えっ、そんなのできんの」 「おお〜、名前ちゃんのアドレスゲット〜」 「は!?俺こねえんだけど!」 「丸井それ送信になってる」 「うっわ、うっわ…最悪」 さっきみたいに丸井と二人でドキドキしたり、ジロくんとのメールでわくわくするのもいいけど、やっぱり皆で笑っていられるのが一番かな。今度はのりちゃんとジャッカルくんも呼んでお菓子パーティーしようか。 「…名前ちゃん」 「どうしたのジロくん」 ジロくんが私の隣に寄ってきて、耳打ちした。とはいえ丸井に聞こえるくらいには大きかったけど。 「みんなでもいいけど、今度は俺と二人で遊びにいこうよ」 「え」 …ドキドキするのも悪くないかも。 0312 |