はじめに言っておく。私には人間を飼うというような趣味はない。そんなSMみたいな恐ろしい性癖など、まったくもって興味もない。私は至ってノーマルだ。しかし今、教室の椅子に腰掛けた私の膝下には間違いなく人間がいる。それも、普段は並んで立つと私がかわいそうになるくらいの長身の彼がだ。 「どうしても付き合ってもらえないんなら、俺あなたの犬になります。だからそばにいさせて」 何とも悲痛な表情でそう言い切った鳳くん。確かに私は彼の交際の申し出を断った。しかし、彼は何か勘違いしている。 「…あの、私、鳳くんを飼おうなんて思ってないよ…」 「ええっ」 なぜ驚く?私は今まで普通の生活をしてきたつもりだったが、自分でも気付かないうちに人間飼いたいオーラでも出してしまっていたのだろうか。そんなのいやだ。 だから再度言わせていただく。 「うん。ごめんね。鳳くんとは今まで通り先輩後輩の関係でいてほしいな」 そう言うと、鳳くんは心なしか目に涙を浮かべて歯を食いしばった。今にも涙が零れおちそうだ。お、おい何だその顔は…。 「待って名前先輩。俺あなたのためなら何でもしますから…!だから……ダメ、ですか…?」 「うっ」 ダメ、とは言わせないこの捨てられた子犬のような表情。駄目だ。鳳くんにはかないそうもない。 「…しょうがないなあ」 私は鳳くんの交際の申し出を受け入れることに決めた。鳳くんは間違っても悪い子ではないし、それにしばらく私といれば、もしかしたら私への感情が恋なんかではなくただの憧れだったということが発覚するかもしれない。 そういった意味も含めて彼を受け入れたつもりだった、のだが。 「…!ほ、ほんとに!?やった、名前さん。今日からあなたは俺の飼い主です。いっぱいかわいがってくださいね」 「え…は、そ、そっち!?」 鳳くんは不思議そうに首をかしげたが、その顔は今までにないくらいきらきらと輝いていた。…なんてこった。 「俺、嬉しいです。名前さんに飼ってもらえるなんて。あ、首輪とか用意した方がいいですか?」 「いいいいいらないよ!!!」 「あ、そうですか」 私はため息をついた。どうして、どこで道を間違えたんだ。私はただ今まで通り鳳くんと仲良くしていたかっただけだったのに。 「…あのさ、私たちの関係はくれぐれも周りには内緒にしてね」 「?まあ名前さんが言うなら…」 鳳くんを飼っているなんてことが知られでもしたら、私が変態扱いされてしまう。それだけは避けたかったのだ。 「…あ、でも宍戸さんにだけは言ってもいいですか?」 …この宍戸信者め。 ーーー 本当はこの後主人公が鳳くんを侍らせることに快感を覚えるようになる変態覚醒イベントに繋がる予定だったのですが辞めました() リクエストありがとうございました。 |