NINETEEN SUMMER | ナノ
どうするべきか迷っていると、後ろから元気な声が聞こえた。振り向くと、なじみの顔が見えた。

「よおマネージャー!…とジローか…?」
「宍戸」

この組み合わせで思い出したのだが、確か宍戸は中学時代テニス部、しかもレギュラーだったはずだ。いつも二年生の背の大きな男の子と一緒に練習していたはずだ。
その宍戸は今は立派な野球部員である。さすがに中学時代から経験を積んできた子たちに打席では敵わないのだが、持ち前の俊足と勤勉な性格が功を成して彼は今や氷帝学園野球部にとってなくてはならないピンチランナーである。

そんな宍戸に芥川くんがゆっくりと向き直る。そして何を言うかと思えば突然宍戸を指さして笑いだした。

「ぎゃはは、坊主似合わなねー!」
「なっ、うるせーよ!!」

軽口を叩きあう二人を見て私は胸を撫で下ろした。ひとまず場の空気が軽くなってよかった。そして選手である宍戸が来てしまったということは、マネージャーである私は急いで学校に向かわなくてはならないわけで。

「宍戸、私行ってるね」
「おー!今日もよろしくな」
「うん。…あ、芥川くんも補習頑張って」
「苗字さんもねー」
「じゃあなー」

芥川くんが私のことを知っていたのに少々驚きつつも(野球部員ですら私のことをほとんど名前で呼ばない)、私は学校へ急いだ。急げば急ぐほど体中から汗が噴き出るが、もうそんなこと気にしてはいられない。商店街のアーケードを抜ければほら、すぐに学校だ。
ちらっと後ろを振り向けば、宍戸と自転車を押す芥川くんの姿が見えた。さすがに声までは聞こえないが、元テニス部員同士談笑しているようだ。しかし彼らはもう別々の道を歩んでいる。宍戸の夏はこれからだが、芥川くんの夏は死んでしまったのだ。

「おはようさん」
「ああ、おはよう」

校門でクラスメイトの忍足くんとすれ違い、互いに挨拶を交わす。忍足くんもテニス部で、もう引退してしまったはずだ。その証拠に、いつも持ち歩いていたテニスバッグ(クラスの男子に大きくて邪魔だと茶化されていたが)は華奢な氷帝の指定のスクールバッグに変わっている。彼もきっと講習かなんかでこんなに朝早くから学校にきているのだろう。

私はふと校門で立ち止まり、二年間慣れ親しんだグラウンドを眺めた。日陰なんてまったくない、太陽が照りつけるグラウンドだ。

「あっ、先輩遅いです〜!」

後輩マネージャーにそう言われてしまい、慌てて敷地内に入った。部室に向かう際、あの有名人跡部景吾にすれ違った。中学のときと比べあまり目立つようなことをしなくなったようだが、やはりその存在感は只者ではない。…そんな彼の夏も終わったんだ。

夏がくれば秋がきて、秋が終われば冬がくる。年が明ければ桜の季節だ。…その後にやってくる夏は、今年以上に輝くことはもう一生ないだろうなあ。


0717