NINETEEN SUMMER | ナノ
強い日差しを遮ってくれるアーケードの中は心なしか涼しいような気がした。少し早めに大学を抜け出した私は真夏の昼下がりに地元の商店街を歩いていた。きょろきょろとお店を横目で流しながら早足で歩く。商店街のお店なんて小学生のとき以来あまり入っていなかったが、よく見るとお店の顔ぶれが少し変わっているような気がする。

この仲見世通りを歩いていると、私は決まってある一人の男の子を思い出す。学園のヒーローだった彼は、どんよりとした私の空を晴らしてくれた太陽みたいな存在だった。なぜクラスも部活も違う彼と私が親しかったのか、今となっては明確には思い出すことができない。
…今はどうしているんだろうか?大学でもテニスを続けているんだろうか?はたまた一人暮らしをしているのだろうか?私のことを思い出すことは、ある?

「……あ、」

私は思わず目を疑った。ぼーっとしてしまっていたのか、いつのまにか目の前まで人が迫っていたことにまったく気付いていなかった。そしてその人は私の目の前で歩みを止めた。顔を上げると、そこには先ほどまで私が回想していた張本人が立っていたのだ。

「芥川…?」

半年ぶりぐらいだろうか。ふわふわの黄金色の髪も今にも閉じてしまいそうな重いまぶたも男の子にしては少し低めの身長もすべてがそのままだったが、唯一身にまとう洋服だけは、当時休日に彼が好んで着ていたようなものとは系統が異なっているように感じた。

「…苗字」

と、彼が私の苗字を呼ぶときはなぜかいつもイントネーションがおかしい。そんな癖さえもが半年前のままであった。それほど時が経過しているわけでもないのに、懐かしくって思わず笑みがこぼれた。

まるで時が止まってしまったかのように、私たちはお互いの存在をなんとか呑み込もうとして見つめあっていた。私の一年前の夏は、彼なしには語れないと言っても過言ではない。それがぽっかりと失われたこの半年間、私はいまひとつ上手に生きられないでいた。

うだるような暑さの中、この商店街だけがタイムスリップしてしまったようだ。頭の中であの懐かしいサイレンが鳴り響く。忘れもしない、あの音だ。浮遊するように、私は一年前の愛しい夏を回想していた。

夏が、きた。


0701