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※生理ネタ含みます


新作のアクションゲームをプレイしていても、バラエティ番組を見ていても、大好きなアーティストの音楽を聴いていても、その痛みが消えることはない。消えるどころか、むしろどんどんどんどん時間が経つにつれて痛みが増していくような気がする。
私は襲いくる腹痛もとい生理痛に耐えながら、何をするでもなく適当に寝っころがって漫画を読んでいる慈郎を見つめた。

(変わらないなあ…)

中学生になると、周りの男の子たちの身長は魔法をかけられたみたいに伸びていって、あっという間に大人のような見た目になる。
慈郎は身長もあまり伸びていないようだし(それでも私よりは高いのだけれども)、何より顔や体つきが昔のままだ。女の子たちから「カワイイ」ともてはやされることはあっても、「カッコイイ」とキャーキャー騒がれることはない。例えば跡部景吾みたいに。

ばさり、と音が聞こえて見てみると読みかけの漫画がベッドの下に落下していて、当の慈郎は気持ち良さそうに眠りこんでいた。私は内心ため息をつきながら彼の落とした雑誌を拾い上げるべく腰を上げた。
昔からこうだ。いつも私は慈郎の世話役。慈郎はなーんにもしなくていい。ただぐーすか寝てるだけ。いっそこいつに彼女ができたら私も自由の身になれるのかしら、なんて思ったけれど、それはそれで寂しい気がしてしまう。幼馴染って関係は面倒だ。この感情を他人に説明できるほどの語彙力を私はまだ身につけていない。
そんなことを考えながらベッドの下を覗き込むようにしてその雑誌を拾っている最中、私は嫌なことに気が付いてしまった。

「…………これ、」

ベッドの奥に身を隠していたその物体。私は何だかそれが無償に気になってしまって、気付けばそれを明るみへと引きずり出していた。

ほぼ裸に近い格好をしたグラマーなお姉さんが私に向かって微笑んでいる。…これっていわゆるエロ本ってやつだ。
なぜ私はこれを引きずり出してしまったのだろうか。数秒前の自分に後悔しながらも、そっと表紙をめくってみる。心臓がばくばくいっている。何故?わからない。ただ、私はこの本に全く興味がないわけではない。ほんのちょっとの好奇心が私の背中を後押ししたのだ。

中身はくらくらしちゃうくらい私には刺激が強かったので、私はすぐにその本のページを閉じてしまった。
まず、女の子は読まないであろう、その類の本。慈郎は読むのか、なんてそこにあったのだからそりゃあそうなんだろうけれど、なんだかとってももやもやした気分になった。
背も私とあまり変わらなくて、顔立ちも可愛らしい慈郎は間違いなく男なのであって、女である私とは実はかけ離れた存在だったのかもしれない。

「………お腹、いたい」

色々考えすぎたのか、一度ましになっていた腹痛がまた襲ってきた。この腹痛だって、私が女であるという確固たる証拠。
慈郎が眠るベッドに寄りかかり目を閉じる。こうでもしていないとこの痛みに飲み込まれてしまう。慈郎の寝息も手伝って、いつの間にか私までもが眠ってしまったようだ。



「名前」
「…あ、あれ?」

ふと名前を呼ばれて意識を取り戻す。一体どれくらい眠っていたのかは検討がつかないが、さっきまで同じく夢の中であった慈郎がまるで私と目線を合わせるかのように、ベッドから降りていた。

「もう6時だよ〜」
「えっ、ウソ」

壁掛け時計を見上げると、確かに短い針は6を差していた。

「今日夕飯食べていきなよ」
「うーん、久しぶりにご馳走になろうかな」
「やった!」

最近はご無沙汰だったが、以前はしょっちゅう芥川家に夕飯をご馳走になっていたものだ。(またその逆も然り)私が食べるとなると必然的に芥川家の夕飯が豪華になるらしいので、慈郎は喜んだ。
今だって変わらず笑みを浮かべている。おおよそ、今日はコロッケだろうか、ハンバーグだろうか、なんて考えているところだろう。
対して私は、覚醒するにつれてお腹の痛みも目覚めてしまったようで、どうしたものかと困っていた。だって、こんなにお腹が痛かったら芥川家のご馳走にありつけないではないか。
無意識にため息をつくと、慈郎が私の目を見た。

「じゃあ俺カーチャンに伝えてくるC!」
「あ、うん、よろしく…」
「…それと、薬も持ってくるよ」
「え?」

私は弾かれたかのように慈郎を見上げた。対する慈郎は優しく笑いながら私のお腹を撫でてくれた。その手は私が想像していた以上にゴツゴツとしていて骨ばっていて、男の人のそれだった。
それを実感した瞬間、なぜだか急に恥ずかしくなってきてしまい、赤くなった顔を隠すべく彼のにおいのする布団に顔を埋めた。慈郎が不思議そうな顔をしているのがわかる。お腹の痛みは引いていったけれど、頬の熱さは収まりそうにない。そんな私は、間違いなく思春期。

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