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昼休み、教室のこもった空気から抜け出して青空の下を一人歩く。私の気分はこんなにも憂鬱であるというのに、本日の空は雲ひとつない。誠に快晴である。
しばらくすると真っ青な空に雲が現れた。やけに流れが早い雲だ。少ししてその雲を追いかけるようにして一回り大きな雲が流れてきた。…ああ、それらの雲が何を示唆しているかなんて考えなくてもよかったのに。

「あっ、」
「す、すみません!」
「私の方こそごめんね」

建物のかげから走ってきた二年生とはからずもぶつかってしまい、互いに詫びる。去って行く後ろ姿を見つめながら小さくため息をつく。

(今の子可愛かったなあ)

あの子ほど可愛かったなら、もしかしたら彼は私のことを見てくれたのかもしれないな、なんて考えてしまって自分で自分に腹が立った。私は、なんてワガママなんだろうか。

じっとその子の後ろ姿を見つめていると、どうやらそそっかしい子のようで、また建物の影から出てきたであろう誰かにぶつかっていた。
頭を下げたその子の向かいに立っていたその男を私は見まごうはずがない。

神様、運命って何て残酷なんでしょうか。

「天根くん…」

私は自分の勘の良さを恨んだ。何も知らなければ良かったのに。何も知りたくなかった。彼が、走り去って行く彼女の後ろ姿を熱っぽい目で見つめていた、なんて。

「名前」

突然後ろから誰かに抱きしめられた。私にこんなことしてくるのも、こんなに愛情を込めて名前を、呼んでくれるのも、一人しかいない。

「サエ、」

彼からはきついムスクの香りが漂っている。わざとらしく他の女の子からこんなにも甘い香りを移され、サエはどうやら私に嫉妬してほしいらしい。でも、私はそんな馬鹿馬鹿しい束縛ごっこにのるつもりはない。サエのそういうちょっと子供っぽいところが苦手だ。
それに、私が天根くんのことが気になっているということを打ち明けても、彼の態度は依然として変わらない。彼からの束縛はきついし、私の罪悪感も時間が経つにつれて膨らんでいく。そんなところも、辛い。
いっそ、全部手放しちゃおうか。こんなのって誰も幸せにならないもの。

「サエ、あのね」

私の言葉を遮るように、彼は私を抱きしめる腕の力を強くした。甘いムスクに混じった本来の彼の香りが、なぜだか私の涙腺を刺激した。


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