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「…桃、何だその女は」

いつものテニスコートに見慣れない人物。見間違いかと思い、汗を拭ってからもう一度視線をそちらに向けてみたが、やはりその異質な光景が変わることはなかった。桃城の隣にいるそいつは堂々と日傘をさしている。もし選手だったりしたら途端に摘み出されているはずだが、そしつはどう見ても女だった。

「ホラ、大石副部長きたぜ」

俺に用があるようだが、あいにく俺はこの女を知らない。確かにこの初夏の日差しにはうんざりするが、テニスコートに日傘をさしてくるような非常識な知り合いは俺にはいない。

「もしかしてマネージャー志望かい?うちは現在特にマネージャーは募集してないんだけど…」
「まあそう堅いこと言わずに、ちょっと話してやってくれませんか?」
「いやだから…」
「こいつウチのクラスの苗字っつーんですけど、どうしても大石センパイと話したいらしいんで連れてきたんすよ」

恐る恐る女を見つめてみたが、女は傘をくるりと回すとあさっての方向を向いてしまった。…なんなんだ一体。
大きなため息をついて、手招きをした。正直あまり関わりたくはないのだが、周りの視線が痛くなってきたので腹をくくった。



コートから離れたベンチに腰かけた。そこは上手いこと日陰になっていたので、女はその可愛らしいレースの日傘を閉じて自らの隣に立て掛けた。

「あ、のさ、苗字さん…?だっけ」
「苗字名前です」

それが彼女の発した初めての言葉だったと思う。鈴を転がすような、透き通った優しい声をしていた。

「俺に話があるんだっけ」

そう、確かに桃はそう言っていた。しかし、言うなればこのような可愛らしい女の子が俺と話がしたいなんて、今までの経験上二つしか理由はないと思った。

「さっきも言ったけれど、マネージャーなら募集していないんだ」
「別にマネージャーになりたいわけじゃないんです。…ただ、大石先輩と話がしたくて…」

そう言って彼女はこれまた初めて自ら俺と目を合わせた。じっと見つめてくる大きな瞳に、すうっと吸い込まれそうになるが、俺はそれを一度目を閉じることで堪えることができた。

「…英二なら、もっと活発な女の子が好みだぞ」

そう、俺のダブルスパートナーである英二に近寄るがべくまず小手調べにとでも言わんばかりに俺に近寄ってくる女子がいたこともあった。

「…エージ?誰ですかそれ」
「…英二を知らないのかい?」

こりゃ驚いた。なぜ俺を知っていて英二を知らないんだ。

「私は大石先輩にしか興味ありません!!」
「は、」
「そりゃあわよくばマネージャーになれればとは思いましたよ。でも私は大石先輩とお近づきになれればそれで良かったんです!」
「え、」
「それなのに他の男の名前を出すなんて…!」

そう叫んだ苗字は急に立ち上がったと思いきや日傘を丁寧に開き、走り去ろうとしていた。

「ちょっと待った!!」

しかしまるで俺のその言葉を待っていたかのようにピタリと立ち止まる。相変わらずその真っ白な傘は浮いている。

「まずその日傘を閉じろ。話はそれからだ」

自分で言うのも何だが、物好きな女もいたもんだ。…マネージャー募集してみてもいいか。


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大石信者「こんなの大石じゃない」「こんなの大石じゃない」