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カチャンっと軽やかな音を立てて金属が落下した。普段あんなにも重い球を返すラケットを握っているというのに、プライベートになるとフォークを握る力すら無いのかと思い裕太くんの顔を見ると、だらしなくあんぐりと口を開けて私の手元を見ていた。
…心当たりがないわけではなかった。私のこの嗜好には、初めて一緒にご飯を食べる人はみんな驚愕するらしい。

「…な、な、何してるんですか」
「まっずいジャンクフードを私好みの味に変身させてあげてるの」
「そんな真っ赤なゲテモノ好んで食べるやつなんかどこにいるって言うんですか?!」
「んー?ここに」

たとえ一般の人たちにとって辛辣な味であったとしても、私にとっては立派なお膳だ。魔法の小瓶を数回傾けると、料理はようやく私の喉を通るのに相応しいものとなる。
深紅に染まった妖精の粉をふんだんにあしらったピザを口に運ぶ。口内にほうり込んだ瞬間、じわりと辛みが広がった。

「…あのね、そういう君も人の嗜好をとやかく言えないと思うんだけど」

ただでさえ甘いダージリンティーに大量のガムシロップを投入する作業に取り掛かる裕太くんをじっと見つめる。シロップだけでだいぶかさ増してるんじゃないのこれ。
裕太くんが甘党だったというのは実はつい最近知ったことなのだが、とりあえず、可愛いよね。

「紅茶に砂糖入れるのは普通じゃないですか。ああ、先輩は紅茶にもタバスコ入れるんですか」
「いやさすがにそれはしないけどさ…」

裕太くんが少しむっとした様子でそう言った。しかしその手は休むことなく、今度はミルクを投入する作業にかかっている。もはや紅茶ではない。

「ありえない…何でよりによって兄貴と同じ嗜好なんですか」
「兄貴って…、あのイケメンな」

私がぽつりとそうこぼすと、今度はぎろりと睨まれた。

「大丈夫。私は裕太くんしか見てないよ」

何が大丈夫なのかはまったくわからないがとりあえずそう言っておくと、裕太くんはそっぽを向いてしまった。耳が赤いので、恐らく照れているだけだと思われる。
私はその隙にこっそりと彼のミルクティー改めゲテモノに、タバスコを投入する。…その行動に特に意味はない。


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