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これの続きっぽい


週初めから雨が続いている。昨日は小雨だったが、今日は時間が経つにつれて雨脚が強くなってきているようだった。雨は嫌いじゃない。嫌なことを全て洗い流してくれる気がするからだ。
屋根のある場所で軽く外の様子を伺ったが、まず空の暗さに驚いた。相変わらずのザーザー降りである。家に帰るまでに靴下がびしょ濡れになってしまいそうだ。

クラスごとに分けられた傘立てには、色とりどりの女の子らしい傘や、いかにも高級そうな深い色の長い傘が見られる。私はその中から何の変哲もないビニール傘を一本抜き出した。借りパクを恐れてビニール傘を持ってくる人はあまりいない。
…私だって好きでビニール傘を使っているわけではない。月曜日までは、お気に入りのピンクの傘を使っていたのだ。火曜日は母の小花柄の傘を借りた。水曜日、つまり昨日からはさすがに懲りてビニール傘を使用していた。
そして今、私はそのビニール傘を上手く開けずにいた。なぜなら、

「名前さん」
「長太郎、」
「…またやられたんですか」

そう言って長太郎は舌打ちを漏らし、私の骨の折れたビニール傘を適当に半分に折ると、焼却炉の横にあるゴミバケツの中に突っ込んだ。昨日も同じようにして折れた傘をそこに入れたのだが、なくなっている。どうやら不燃物としてきちんと処理されたらしい。

「もうこれで四日連続だよ。傘を盗むならともかく折るなんて目的がさっぱりわからない…」
「…そうですね、そこら辺は俺にも理解しかねます」

そう言うと長太郎は自らの黒い傘を開き、「傘がないなら俺と一緒に帰るしかないですよね」と私の方にその傘を傾けてくれた。



次の日も朝から雨が降っていた。雨の日のアスファルトが独特の匂いを放っている。私はその日もビニール傘を開いていた。どうせ折られてしまうなら、わざわざ普通の傘を使う必要はない。
今日もまた折られてしまうのだろうか。憂鬱な気分で授業を受けているうちに、わざわざ傘を折られるのを待っている理由はあるのか?という考えに至っていた。…そうだ。とっちめてやろう。私はHRが終わるとすぐに教室を飛び出して、昇降口に向かった。



「長、太郎…?」

そこには見覚えのある姿があった。大きな身体がゆっくりとこちらを振り返ると、彼はにっこりと微笑んだ。しかし手にはしっかりとビニール傘が握られていた。

「あれ、今日は早かったんですね」

私は彼の手に握られた傘から目が離せずにいた。間違いなくそれは私の所有物だ。何をしていたか、なんて愚問だろうか。ここ数日前の惨劇に今、ピリオドが打たれようとしている。

「何してるんですか先輩。早く帰りましょうよ」
「今日もあいにくの雨ですからね。良ければ俺の家にでもきますか?」
「…ああそっか。傘がないから帰れませんよね!でも大丈夫。これからはずっと俺が名前さんのこと送ってあげますから」

そう言って手を差し延べた長太郎を拒むことはできない。事実彼がいないと濡れて帰ることになるし、何よりも私は長太郎が、
「ありがとう」の声が震えた。この男はそれをも承知していそうなものだ。しかし不思議とその手はあたたかかった。

携帯を折られ、傘を折られ、次に折られるのは…。私は思わず凶暴な未来を想像してしまい、ぶるりと身震いした。


ーーー
majikichi