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俺の昼寝は部室の一角、見つかりにくくて誰にも眠りを妨げられなさそうなところを適当に見繕って、頭が痛くならないようにジャージやらなんやらを敷く作業から始まる。(マネージャーの苗字いわく巣作り)

今日は天気も良くてあったかくて気持ちE〜。徐々に眠りの世界に入っていこうとしていた頃、足音が二つ聞こえてきた。やっべ〜。でもここで見つかって昼寝の邪魔されたらたまったもんじゃない。
姿は見えないが、声色から判断するとおそらく部室に入ってきたのは日吉と苗字だ。日吉はともかく苗字に部活サボって寝てるのばれたら絶対怒られるからマジマジ焦ったけど、とにかく息を殺していることしか俺にできることはなかった。
会話の内容から察すると苗字は部誌を書きに、日吉はタオルを替えにそれぞれ部室にやってきたようだった。だとすると苗字は部誌を書き終わるまで部室を出ないだろうから、やっぱり面倒なことになったなとばれないようにこっそりため息をついた。

「先輩、八尺様って知ってますか」

唐突に日吉がそう尋ねると、苗字は吃りながら知らないよ、と答えた。あ〜あ、苗字って嘘つくの下手くそだよね。確か八尺様っていうのは有名な怖い話だったはずだ。苗字は平気なフリしてるけどそういう話の後決まって一人になりたがらないことから、怪談話とか本当は苦手なんだろう。いつもあんなにしっかり者のくせしておもしれ〜。

「話してあげましょうか」
「…私幽霊とか信じてないの」
「先輩は手動かしてていいですよ。俺が勝手に話してるんで」

これ日吉確信犯だろ〜。見えないのに日吉のニヤニヤ顔が容易に想像できてしまった。
やがて日吉が抑揚のない声で話し始めた。俺ら以外に誰もいない部室内はとっても静かで、少しでも身じろぎしたら見つかりそうだ。気をつけないと。苗字は黙ったまま部誌を書くことに集中しているようで、何も言わない。その間も日吉は淡々と語りを続けている。なんかシュールだな。
しかし事件は起きた。日吉が「そのとき、扉をノックする音が…」と語った瞬間、何やらガラガラガッシャーンというけたたましい音が部室内にこだました。

「……な、な、何の音…?」
「更衣室の方から聞こえましたね。…ちょっと様子を見てきます」
「なっ、駄目だよ日吉!私も一緒に行く」
「…仕方ないですね」

おっ、苗字うまいこと日吉の死亡フラグを回避したな〜。それより音の正体は俺も気になる。まさか日吉の怪談話で「呼び出しちゃった」なんてことになってたらマジマジおもしれーのに。
二人がロッカーのあるスペースに移動すると、ちょうど俺の寝ている位置から二人の姿を確認できるようになった。まあ同時に俺も見つかりやすくなったから注意しなきゃいけねーけど。

「ちょ、ちょっと隠れてる人〜。せせせ、先輩をからかうなんて許さないわよ〜」
「…誰もいませんね」

苗字吃りすぎじゃね?ビビってるのバレバレだC〜。先程までの日吉だったら真っ先にからかっていたと思うが、今の日吉は完全に肝試しか良くて名探偵モードに切り替わってしまっている。
二人とも俺らの荷物やらをどかしたりして音の正体を探ろうとしているが、両者のベクトルはまったく逆の方角を指しているような気がする。つまり、苗字は先程の音が怪奇現象ではなく生身の人間によるものだということを確定させたくて犯人探しをしているようだが、日吉は荷物をどかす度にほっとした顔をすることから、怪奇現象以外の可能性をさっさと除いてしまいたくて犯人探しをしているようにしか思えない。

「…やっぱり日吉くんが呼び出したんじゃ…」
「…どうしたんですか不安そうな顔して。信じてないんじゃなかったんですか?」
「し、信じてなんかないわよ!!」

と苗字が叫んだ瞬間、その声を遮るように再びガラガラガッシャーンという音がした。あまりに大きな音に苗字だけでなく日吉の肩も跳ね上がる。
しかし先程と違うのは二人が近くにいたということ。更に近くにいたということは音の出所を確認することができたということで…。

「…このロッカーだな」

日吉はテニスをしているときでも見たことがないような笑顔を貼付けながら、一見他のロッカーと変わらず何の変哲もない、しかし先程から不気味な音を発しているそのロッカーに手をかけた。

「ちょ、開けるの…?」
「もちろん」
「…目つぶっててもいい?」
「(…可愛い)

そう言ってしっかり目をつぶった苗字を背に、一呼吸おいて日吉がその扉を思いっきりバーンと開けた。その瞬間雪崩が日吉を襲った。

「う、わ!!」
「キャアアアア!!!!」

驚愕した声につられ、苗字が悲鳴を上げながら日吉にしがみついた。うっわ近。雪崩の正体はどうやら大量の箱のような物らしい。つまんねーのー。

「せ、先輩なにしてんですかっ目開けてください」
「無理無理無理…!」
「これが中で崩れてただけみたいですから!」

そう日吉がに落下物を突き付けると、ようやく苗字は目を開き、日吉から離れた。…ていうかあの落ちてきたやつって…。

「…ひ、日吉が憑りつかれてなくて良かった」
「何言ってるんですか」
「それにしても、何でこんなにお菓子の空き箱が入って、」

「ま、まさか…」とぴたり、と動きが止まる。苗字の両手はポッキーの空き箱でいっぱいだ。

「…ジ、ジロ〜!!」

あーこれはやばいやつだ。それに今見つかったらサボりも兼ねて二倍怒られるC〜。…どうか、見つかりませんように。俺は襲ってくる眠気に耐えながら両手を合わせた。


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