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「嫌だよ」
「え」

だってサエと付き合ったら絶対めんどくさいもん、と続く言葉はもはや俺の耳に入ってこなかった。

「…その反応、イケメンだから断られないとでも思った?」

…思った。正直、思っていた。しかしそれは根拠のない自惚れなんかではなく、今まで生きてきた経験に基づいたものだ。
でも名前ちゃんの言葉に「はいその通りです」と頷いたらますます煙たがられるに違いない。

「そんなこと…」
「それにあんた間違いなく浮気するでしょ」
「しないってば」
「…現在進行形で浮気してるくせに、説得力ないの自分でもわかるでしょ」

そう冷たい目で言われて首をひねる。浮気、なんのことを言っているのかわからない。俺は今名前ちゃんに交際を申し出ているところなのに。

「うっわ最低、彼女はどうしたのよ」
「え?俺別れたよね?」
「ほら、はっきりしない。向こうは絶対まだ付き合ってると思ってるよ」
「は?何それめんどくさい」

もう一度名前ちゃんがどすの効いた声色で最低、と罵る。だって、俺のことちゃんと捕まえておかないのが悪いんだよ。
眉間にしわを寄せている名前ちゃんの背中に手を回し、耳元で囁いた。ぶっちゃけこれで落ちない女の子はいない。

「名前ちゃんは俺のこと閉じこめてくれるでしょ?」
「意味わかんない!気持ち悪い!!」
「……いいよ、じゃあ諦める」
「…え」

するりと背中に回していた手を離してついでに名前ちゃんに背を向ける。拍子抜けた声を出した名前ちゃんが可愛い。
そのままゆっくりと歩みを進める。後ろでは名前ちゃんがえ、とかあ、うとか言っているのが聞こえて思わずクスリ。

ほら、捕まえるなら今のうちだよ?



ーーー
これはいい外道