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※YURIでござる


金髪の風になびくようなウィッグと、どこかから借りてきた立派な王子様の衣装を最初に見たときはわくわくが止まらなかった。こんなのきっと一生着る機会なんてないから、こうなった以上はやるしかないって。
でも実際にそれらを身に着けた自分を鏡越しに見ると、果たしてこれを王子様と名乗っていいものか、それ以前に人前に出ていいものなのかとさえ思ってしまうほどしっくりこない。
だめだ、だめ。今更だけど、やっぱり誰か代わってくれないかな?私だってたまたま女子の中で一番背が高かったというだけで好きで王子様役をやってるわけじゃないんだし、このくらいのわがままなら許してもらえる気がする。それにほら、絶対王子様役やりたい男子いるよね。なんたって姫役は杏ちゃんなんだから。

「名前ー、開けるよー?」

更衣室代わりにしていた教室のすみっこで着替えていた私に声がかかった。しかもこの声は杏ちゃんだ…!無理無理無理、絶対こんな姿見られたくない!杏ちゃんだってこんな王子様きっと願い下げだ!

「ま、待って…!」
「え」

時既に遅し。鏡越しに驚いた顔の杏ちゃんがうつっているのが見えた。ていうかうわ…!杏ちゃんお姫様の恰好してる…!かわいい、んだけど、かわいいだけじゃないってところが今回のお姫様に杏ちゃんはぴったりだと思った。台本を見たときからそう思っていたけれど、衣装を着て髪の毛をセットした杏ちゃんを見てますますはまり役だなあと感じた。それに比べて私は衣装もウィッグも似合ってないし、性格だってこんなに後ろ向きでうじうじしてて、ぜんぜん王子様とは違う。それなのに杏ちゃんは鏡にうつった私を見るとぱああっと笑顔になった。

「名前、こっち向いて」
「無理!!」
「いいから早くしなさいってば!」

杏ちゃんの思いもよらぬ迫力に押され、仕方なく杏ちゃんに向かい合う。すごい。近くで見ると杏ちゃんやっぱりかわいい。ピンクのキラキラなドレスとお花の飾りがその可愛さを十二分に引き立てている。…私だったら絶対似合わない。王子様の衣装もお姫様の衣装も似合わないなんて、私は一体何なら似合うんだろう?そうだ家来とかかな。地味で堅実に杏ちゃんに仕える家来だ。

「……杏ちゃん?」

それにしても、さっきから杏ちゃんが黙りっぱなしなのが気になる。まずい、ドン引かれたかな。そう思った瞬間、すごい力で両肩を掴まれた。

「…名前、どうしようかっこいい」
「え、う、嘘だあ…!」
「嘘じゃないわよ」

そう言って杏ちゃんは興味深そうに私の衣装やらウィッグやらをいじり始めた。

「名前本当に髪切っちゃえば?」
「えええ、こんなに似合ってないのに」
「だーかーらー、かっこいいって言ってるでしょ?」
「あ、杏ちゃんも可愛いよ…」
「知ってる」
「ははっ、何それ」

杏ちゃんはいつだって胸を張って生きてる。男の子にだって物怖じしない。今だってほら、杏ちゃんに褒められたら私、できる気がしてきた。まるで魔法をかけられたみたいだ。

「王子様役が名前で良かった。その辺の男子となんかキスしたくないもの」
「やだ、かわいそうー……ってキ、キス?!」
「あら、台本読んでなかったの?」

杏ちゃんはくすくす笑った。だが私はそれどころではない。杏ちゃんとキスするの?っていうかしていいの?!

「ねえ名前今のうちに練習しとく?」
「れ、れんしゅう…」
「ほら早く、」

そう言って目をつむった私より少し背の低い杏ちゃん。ていうか私からするのか。マジか。ということを言うと、「何言ってんのよ名前からに決まってるでしょ?」と怒られた。勝てる気はしない。

「お姫様は王子様のキスで目覚めるのよ」



「キ、キスの『ふり』…?するフリで良いの?」
「はい、お願いします」
「杏ちゃん…?」
「私ウソは言ってないわ」

ーーー