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周りに流されて買ったもののいまいち使いこなせなかったスマートフォンだが、その画面の大きさを生かした画質の良いカメラ機能は、何を隠そう芥川慈郎の天使のような寝顔を激写するために付けられたと言っても過言ではない。はずだ。だから私はこの機能を最大限に利用することをここに宣言します!

「じっとしててねー…」

いつものように中庭で気持ちよさそうに眠る芥川。私はどうにかしてその姿を収めようと、背面のレンズを彼に向けた。
木陰で眠ってしまっているため少し暗いのが悔やまれるが、それでも画面にはしっかりピントも合った芥川が映っている。あとは画面下部のシャッターボタンにタッチするだけだ。

「わっ!?」

その瞬間、腕をもぎ取られるんじゃないかというくらいのものすごい力で下方向に引き寄せられる。バランスを崩した私が着地したのは先ほどまで寝息を立てていたはずの芥川のすぐ隣だった。
いつの間にか手の中からスマホは消えていて、視界はドアップの芥川のニヤニヤ顔でいっぱいになった。体勢を立て直す暇も与えられず、これまたいつの間に奴の手に渡ったのだろうか、芥川が握りしめている私のスマホからシャッター音が鳴り響いた。

「ちょ、何して…っていうかいつから起きてた?!」
「へへ〜キセージジツってやつ?」

へらへらと笑いながら芥川が見せつけてきたその液晶画面に目を凝らす。

「こ、これは…」
「岳人に自慢しよ〜」
「コラ!あいつに送ったら100人のメル友にばらまかれる!!!」

事故ですっころんだだけとはいえ、この写真だけを見たら確実に誤解されるだろうと言えるほどのベストショットっぷりである。もし私たちのうちのどちらかが犬だったりしたら私は間違いなくポチタマに送る。それほど仲睦まじげに写っていた。

「E〜じゃん」
「駄目だってば!!」
「ケチ〜」

ケチとかケチじゃないとか、そういう問題ではないのだ。こいつは自分が人気があるということを知らないのか?私だってまだ平穏に学園生活を送りたいのに、あんな写真ばらまかれたら怖い女の子たちにしばかれるわ、他のテニス部レギュラーにはどやされるわ、友達には哀れまれるわ、とにかくとんでもない日常生活、否非日常生活しか待っていないだろう。

「あ」

何か閃いた様子で起き上がった芥川は、頭に電球がぴこーんと光ったようにも見えた。

「事実にしちゃえばいいんだよ」
「は?」
「そしたらなーんも隠すことないC〜。ね、俺天才的〜!」

そう言った芥川を見て、こいつわざとやってるんじゃないかなんて疑念が私の中で大きくなってきた。

「…苗字さん」
「駄目、じゃないけど!」

ああもうまた甘やかしちゃった。そうしたらまた横で「じゃあ岳人に送るね!」何て言って私のスマホを操作し始めたから慌てて止めようとしていた。が、

「…あ」
「何…?」
「苗字さんが邪魔するから間違えて跡部に送っちゃったC」

なんかもう本格的に非日常しか待ってないよね。芥川にはどう責任とってもらおうか。

「あ、俺にも送んなきゃ。待受にするね!」

待受って。その言葉にも驚いたけどもうつっこむの疲れちゃったよ。私も寝ようかな。あとさ、初めて触ったのに私のスマホをしっかり完璧に操作してる芥川の才能ね。白旗。



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