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ドリンクを日吉に渡すと、「温い」とか言って顔をしかめていた。何でだ。今日は上手くできたはずだったのに。

「悪かったわね、能無しで」

これでもデータ管理では跡部に一目置かれてるみたいだからマネージャーとして使ってもらってるんだけど。(氷帝にはデータマンがいないしね。滝くんは測定人生だし)

「日吉って私のこと嫌いだよね」
「何だ、わかってたんじゃないですか」

相変わらずつれない態度の後輩をもって先輩は悲しいよ。なんていう台詞は心の中で言いながら、泣き真似をした。私としてはほんのおふざけのつもりで、すぐに日吉の「何くだらないことやってるんですか」なんていう鋭いツッコミがくるんだろうなあと構えていたのに日吉ときたらどうやら私が本当に泣いていると勘違いしたのか、おろおろし始めたではないか。

「ちょ、何泣いてるんですか」
「、ひっく(おもしろいからこのまま泣き真似してやろーっと)」
「…馬鹿じゃないですか」

あーあー、もう日吉ったら女の子の扱いに慣れてないなあ。泣いてる子に対して馬鹿は無いでしょう。まあ日吉が女子に慣れてたらそれはそれでなんか嫌だけど。先輩としてはさ、やっぱり日吉にはいつまでもウブでいてほしいわけさ。

「そんなに俺に嫌われてるのが悲しかったんですか」
「ち、ちがっ…」
「…まあそうでしょうね。じゃあドリンクぬるいって言ったからですか?あれ嘘ですよ本当は超冷え冷えでしたこめかみ痛くなるくらい冷えてました」

なんだなんだ、今日の日吉ったらやけに多弁だ。焦ってるのかな?かわいい奴め。それにしても冒頭の悪態は嘘だったのか。良かった。ドリンクがちゃんと冷えてたみたいで良かった。だって日吉のが冷えてるということは一緒に作った鳳くんと樺地くんのも冷えているということで。あの二人にはちゃんとしたの飲ませてあげたいからね。
そんなことをぐるぐると考えていたら結構な時間が経ってしまっていたようで、その間ずっと黙りっぱなしだった私に日吉は更に参ってしまったようです。

「…先輩俺今からすごいこと言いますけど、これでも泣き止まなかったら俺先輩のこと一生放置していいですか」
「い、いよっ…(なんかとんでもないこと言ってるなこいつ)」
「………」
「…?」

今から何かを言うらしいので待っていたのに、日吉が黙ってしまったので不審に思ってこすり続けていた両手を目から離して日吉を見上げる。日吉ももらい泣きしてた…とかいう面白い状況には特になっておらず、いつも通りの仏頂面だった。…あんまり顔を上げてると泣き真似ばれるな、と思い再び両手で目を覆って鼻をすすった。

「…本当は嫌いとかいうのも嘘です。苗字さん好きです」
「え!?」
「っていうのも嘘なんですけどね」

…ちょっともう何なの日吉くんさっきまでの焦りはいずこへ?思わず眉間にしわを寄せて睨んでいると、日吉くんがさっきまのしたり顔からまたいつもの無表情に戻った。

「…あの、言おうか言うまいかずっと迷ってたんですが」
「うん」
「もしかしてずっと泣き真似でした?」
「え」
「俺をそう簡単に騙せると思わないでください。まあ先輩はコロッと騙されてくれますがね。さっきの嘘も嘘なのに」
「…それって好きっていったのが嘘ってこと?それとも好きって言ったのが嘘でその嘘が嘘で…あれ?」
「下剋上だ」
「あ、こら待ちなさい!!!」

もうなんなのこの子ひねくれすぎじゃない?それともこんな風に教育しちゃったのは私なの?



「つまり、ドリンク冷えてたっていうのがやっぱり嘘なんですよ」
「(しかも一番ムカつく正解来た!!)」



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