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昼休みの訪れを知らせる鐘が鳴り響き、私たちは一斉に席を立つ。その異様な雰囲気に周囲のクラスメイトがぎょっとした顔をしていたが、そんなものに構っていられない。私たちが向かうのは屋上。そこで待つのは後輩の苗字名前だ。そう、これはいわゆる「お呼び出し」である。『二年の苗字名前が最近芥川くんにベタベタしている』この言葉にギラリと目を光らせたエリカ様が今日のお呼び出しの首謀者だ。
正直私は芥川慈郎に興味はない。だってあいつ寝てるだけじゃん。それに私忍足くん推しだし。なので苗字名前のことも知らないしぶっちゃけ知りたくないもないんだけど、友達付き合いは大切にしたいので仕方なく屋上への階段を上るのであった。恐らく私の他にもメンバーの中に同じような心境の子はいるだろうが、彼女たちも眉を八の字にしながらも結局はエリカ様に付き合っている。それだけエリカ様には人を惹きつける魅力があるというのに、どうして芥川慈郎はそれに気づかないのだろううか?甚だ疑問に思う。



「…ちゃんと来たのね苗字名前」
「先輩のお呼び出しですから」

ぴゅうううと冷たい風が吹き付ける。寒いっすよエリカ様。早く終わらないかななんて心の中でぼやきつつも苗字さんのお顔をさり気なくチェック。うん。身長はそこそこ高い癖して顔はかわいらしいじゃない。

「あなた、最近芥川くんと仲良いらしいわね」
「…知りません」
「っとぼけないで!!」

おお怖。苗字さんに睨みをきかせたエリカ様に加勢するかのように周りの女子たちが賛同の声を上げ始めたので、一応私も「そうだそうだ」と言っておいた。しかし苗字さんは黙ったままだ。二年のくせに肝座ってるなあとふと視線を下にずらすと、彼女の足が小刻みにふるえているのが見えた。
…うんそうだよねやっぱ怖いよね。もうすぐ終わるだろうから我慢してね。

「何とか言いなさいよ!!」

そんな苗字さんの態度に頭に血がのぼったのか、エリカ様が右手を振りかぶった。ああ暴力はいかんって。だめだ止めないと。そう思い私が足を踏み出したのと同時に、エリカ様の細腕が何者かによって掴まえられた。

「君たち名前ちゃんに何してるの〜?」
「ジロー先輩?!」
「あ、芥川くん…!」

ワーオ、王子様登場しちゃったよ!こりゃあエリカ様的にまずい状況になった。だって絶対「名前ちゃんに触るな!」「畜生覚えてなさい!」→「これからは俺が守るからね」「ジロー先輩…!」っていう流れになるじゃない?そうなったらもうエリカ様の付け入る隙がない。ていうか今更だけどえらく古臭い展開になってきたなあ…。
芥川慈郎が苗字さんとエリカ様の間に立つ。堂々とした態度でエリカ様を見据えた彼の姿にエリカ様も一瞬はひるんだものの、すぐに般若のような顔にもどる。…マジか。好きな人の前でも激昂は抑えられないのか。

「わ、私に楯突こうっての!?」
「ヒッ」

エリカ様、すごい剣幕です。そしてそんなエリカ様にびびったのか、芥川慈郎は小さく悲鳴を上げて苗字さんの背後に隠れてしまった。正直男としてそれはないわ。

「ちょ、ちょちょちょちょっと!何私を盾にしてるんですかジロー先輩!」
「だってあいつマジマジ怖ェんだもん!!大丈夫、俺より名前ちゃんの方が喧嘩強いC!」
「何を根拠に!?せめて何か武器ないんですか、ほらラケットとか!!」
「ラケットは人を傷つけるためにあるんじゃないC」
「…私を無視してんじゃないわよ!!!!」

あーあ、もうエリカ様止まらないよ。後ろで見ていた私たちはほぼ全員苦笑い。
しかし当の本人たちはそれどころではない。エリカ様なんて今にも殴りかかりそうな雰囲気だ。実際テニス部レギュラーの芥川慈郎が、それも二対一で女子に負けるわけないのに完全に気迫で負けてしまっている。

「ひいぃ怖E!!」
「ごごごめんなさい!!」
「なら二度と芥川くんに…」
「待ちな」

一斉に声のする方を見上げると、カラフルなパラシュートが宙を舞っているのを捉えることができた。逆光のためそれを身に着けた人物は認識できなかったが、ゆっくりとそれが下降してくるにつれその姿も明らかになってくる。そして歓声がとんだ。なぜならその人物は…。

「キャアア!!跡部様よー!!!」
「あ、跡部様ですって!?」

ファサア…とパラシュートが地面に着くと、彼自身もまた華麗に着地した。一体昼休みの間何をしていたのかということについては誰も問わなかった。

「あ、跡部〜!」

涙目になった芥川慈郎が跡部様に助けを求めに行った。そんな彼を軽くいなすと、跡部様はそのまま私たちの前までツカツカ歩いてきた。
あーあ、この人生徒会長だもんね。どうやらお咎めからは逃れられそうにない。誰もがそう覚悟した瞬間だった。

「屋上は人を傷つけるためにある場所じゃねえぜ、雌猫ども」

その一言を残し、跡部様は屋上から去って行った。少しの沈黙の後、女子たちが再び黄色い声を上げる。一方エリカ様は彼の去って行った方向を眺めては惚けていた。こりゃ惚れたな。
視界のはしっこでは芥川慈郎と苗字さんが抱き合っていたけれどあいつらはもう知らん。そしてとりあえず私もきゃあきゃあ言っておいた。それだけの話。




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