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映画は安っぽいラブストーリー。大学で出会った主人公とヒロインの前にヒロインの幼馴染が現れて…なんて陳腐な話、よくこれだけある映画の中でこれを選んだなあと思って隣の芥川を見ると、キャラメルポップコーンを抱えたまま眠ってしまっていた。まあ予想はしてたけど。
「寝ちゃったごめんねへへ」とあまり反省していないようなご様子。けれども芥川には殴りたいという気持ちは不思議と湧いてこない。彼の日々の行いが良いのだろうかと頭をフル稼働させてみたけどどうしたって寝姿しか浮かばなかった。得な性格だ。
外の空気を吸ってすっかり覚醒した芥川に連れられ続いてやってきたのは遊園地だった。映画観た後に遊園地とはなかなかハードだ。芥川は疲れないのかな?とちらっと隣を見たけれど同時にこいつが映画館でsleeping timeに入っていたことを思い出した。ちくしょう疲れるのは私だけか。しかも明日学校じゃん。

「うおーここループコースターあったのかよ!!乗ろうよ乗ろうよ」
「わ、わ、待って」

手を引っ張られ全力で走られる。正直そういう乗り物は苦手だ。内臓が口から飛び出すような錯覚に陥ってしまって、絶叫するにも至らない事態になってしまう。
テニス部で鍛えた腕力はさすがのものだが、基本的に芥川は小柄だし振り払えないこともない。じゃあどうして振り払わないのかというと、単に私が非常に流されやすい性格だからである。心の中では散々言っているけれど、生来お人よしだとか頼まれたら断れない性格だとか言われてきたのがこの私苗字名前である。

「はあっ、はあっ、きゅ、急に止まってどうしたの?」
「…もしかして絶叫系苦手?」
「へ?なんでわかったの?」

先程まではしゃぎまくっていた芥川が急に走るのをやめてしまった。起きているときの芥川は猪突猛進で騒がしいと記憶していたので、その様子に首をかしげる。

「顔青かったC」
「うそっ」
「そんぐらい気付けなきゃ俺彼氏失格だよね?あぶねー!」

嬉しいんだけれど、嬉しいんだけれど。実はさっき紹介させていただいた私の性格が今日のこの不測の事態を招いていた根源なのだ。
いきなりデートに誘われ、手を繋いで歩いたり一緒に映画を見たり(寝てたけど)、遊園地に行ったり、やってることは世間一般の恋人たちとおよそ変わらないだろう。だが、

「………あのさ、芥川って私の彼氏だったの?」
「?なに言ってんだC〜苗字から告ってきたんじゃん!」

知らない、私はそんなの知らない。私が今日一日芥川と恋人同士でデートという意味のわからない状況に陥っているのにも関わらずストップをかけられなかったのは、私の性格に加え「本当に付き合うことになっていたのかもしれない、私が覚えていないだけで」という考えが最終的に拭いきれなかったからだ。それも芥川が当たり前のように私を「彼女」だと主張するせいであったが、今こいつについて考察を深めているうちにある一つのそれでいて非常に確実性のある答えを導き出してしまった。

「あのさ、もしかしてそれ夢だったりしない、かな…?」
「おいおい苗字ってば冗談キツイC〜」
「いや、ほんとに私芥川に告白した覚えがないっていうか、昨日までは普通にクラスメイトだったわけだし」
「………」
「…芥川?」
「…そういえば告ってきたときの苗字ずっと日吉の演舞テニスの真似してたような…」
「それ夢だから」

…「ヒヨシのエンブテニス」って何だろう。変なのじゃなければいいなあ。せめて夢の中ではかわいく見られたい女心である。
ともかく恋人疑惑が解消してほんとうによかった。私今日映画観てるとき「夢遊病なんじゃないか」とか気になってしょうがなかったからね。
一人悦に浸っていると、芥川が大きなため息をつきながらしゃがみこんでしまったようで、綺麗に染まった金色のつむじが見えた。

「はあ〜マジありえないC−…」
「あ、でもデート云々抜きでも今日は楽しかったよ?ありがとう」
「今からでも正夢になんないかな」
「え」



後日「ヒヨシのエンブテニス」を見に行って思わず顔をしかめた私がご本人様ヒヨシくんに目をつけられたのはまた別のお話。



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