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放課後誰かに呼び出しを受けて慣れないテニス部の部室を訪ねると、中で待っていたのは鳳くんだった。幸い彼とは宍戸を通して面識があったので、私も少し気持ちが楽になる。しかしこの無駄に大きな男の子は、私が入ってきたのを見ると表情を真剣なものに改め私の手を取りこう言うのだ。

「ずっと好きでした」
「…で、でも私には宍戸が」
「宍戸さんの彼女だっていうのはわかってます。それでも、俺のことも考えてみてくれませんか」

私の目をじっと見つめる鳳くんは、普段「宍戸さん宍戸さん」とあいつの後ろにひっついているかわいい男の子というイメージを忘れさせてしまうくらいに男の人の顔をしていた。私には彼氏がいるし、ここではっきり言わないとズルズル続いて面倒臭いことになるに違いない。というのは宍戸の彼女としての意見で、私としては…、

「う、うん。考えてみる」

こんなイケメンに告白されちゃって、やすやすと断るなんて勿体ない!!!!私の返事にぱあっと明るい笑顔を見せた鳳くんは、先程までの男らしい表情とのギャップも手伝って、実に形容しがたいかわいさを放っていらっしゃった。

「嬉しいです名前さん。…俺、これからは容赦しませんよ。絶対あなたを振り向かせてみせます」
「えっ」
「じゃあ部活なんで!」

うひゃー、「容赦しませんよ」だって。これにときめかない女子なんてこの世に存在するの?私は少女マンガに出てくる女の子なんかじゃない。宍戸のことは大好きだけど、イケメンにこう連続で告白されちゃ浮かれちゃうのよ。でへへ

「ずいぶんと人気なんですね」
「うわっ!!日吉くんいたの?!」
「ずっといました」
「まじですか」
「…そういえば忍足先輩も苗字さんのこと好きだとか言ってましたよ」
「え、うそ!!ねえねえ日吉くんは?」
「興味ないです」
「あ、はい」

日吉くんはいつもこんな感じなので別に期待はしてなかったけど。それに日吉くんまで私を好きだなんて言い始めたらさすがにおかしいと思う。そう、私はここ数日間でテニス部レギュラーに次々と愛の告白をされていた。同じクラスの向日、続いて芥川くん、そして鳳くん、さらにあのクールな忍足くんまで私を好いているらしい。その後向日と芥川くんは普通に接してきたため、二人のいたずらだと思った。しかし鳳くんの切迫した表情を見て、その考えはやめた。だって鳳くん絶対本気だった!それに好きだって言ってくれる人を疑うなんてかわいそうだし。モテキばんざい!!!いけめんぱらだいす!!!脳内花畑状態になった私は先程ご覧いただいたように、彼らの告白の返事を渋ったりしちゃってます。だってそんな簡単にあきらめられちゃ困る!本気で好きなのは宍戸だから許して、ね。



「苗字さん、ちょっとええか」
「は、はい!」

翌日、課題の提出を終え帰宅しようかと思っていたところ耳元で低い声で囁かれた。正直鳥肌がたったけれど振り向けばあら男前、テニス部レギュラーの忍足くんではあるまいか。本当は今日は宍戸との約束があったので早くそっちに行きたかったのだけれど、昨日の日吉くんの言葉が脳裏によぎった。まさか忍足くんも…。期待を隠しきれない私はそのまま彼の大きな背中を見つめながらのこのことテニスコートの横までついてきてしまっていた。

「あんな、急にこんなこと言って困らせてまうかもせえへんけど」
「う、うん」
「苗字さんのことが、な」
「うん」
「………ぷ」
「…え?」
「あーー!!!侑士笑っちゃだめだろ!!」
「おい岳人黙れ!」
「え!?」

真顔で愛を告白していたはずの忍足くんの顔が歪み、突然彼が吹き出した。不審に思う暇もなくそびえ立つ木々の向こうから何やら聞き覚えのある声がして、先程とは一転して呆れた顔をした忍足くんに手招きされて出てきたのは三日前に私に告白したばかりの向日に芥川くん、鳳くん…ああ、宍戸までいる!名前、まったく展開が読めません…!

「今更隠れても無駄やで」
「忍足が笑うのがいけないんだC」
「くそくそ侑士!!せっかくおもしろくなってきたのに」
「…ちょ、ちょっと何?宍戸!」
「わ、わりい名前…」
「宍戸さんは悪くないですよ!言い出したのは忍足先輩ですし。…それに今回ばかりは俺宍戸さんに同情します。さすがにひどいですよ、名前さん」

鳳くんの突き刺さる視線を受け、うろたえた私に忍足くんが「ほな、種明かしや」と言ってこの不可解な状況を説明してくれたのはいいんだけど…。

「…騙したのね」
「ち、違うって、宍戸は試したんだよ!お前がちょろちょろしてるから他の男になびいちまうんじゃねえかって!」
「苗字さんはっきり断らなかったC〜」
「浮気性なお嬢さんやなあ。宍戸、これからはよう見張っときい」
「な、なあほんと悪かったって」
「だから宍戸さんは悪くありませんよ!かわいそうな宍戸先輩…先輩はあんなに名前さんに一途なのに…」
「え?」

思わず耳を疑ってしまうような発言が鳳くんの口から飛び出した。だってこうして彼氏彼女な関係な私たちだけど、どう見ても私の好きの気持ちの方が強いと思う。さらにこんな仕組まれた告白なんかなくたって私より宍戸のほうが遥かにモテるわけだから、彼の方が他の女の子にでれでれしてるはず!見事に自己完結した私となぜか焦っている宍戸をよそに、今度は忍足くんが話に入ってきた。

「残酷な男やでほんま。向かってくる女の子の顔もろくに見てへんで『俺には名前がいるから』なんて言うてな」
「あの日吉ですらもっとマシな振り方するぜ」
「えっ、えっ、本当?」

ありえない、けどみんなが言うからには本当なんだろう。じーんとして宍戸の方を見れば「…だからこれからはお前も俺だけ見てろよ」なんて言われちゃってああ愛されてたんだ私。にやにやしてたら宍戸が帽子で顔を隠してしまった。

「あーあー、お騒がせなこった!嘘でもこいつに好きだなんて言って鳥肌立っちまったぜ」
「向日喧嘩売ってる?」
「俺は苗字さんのことスキだよ〜」
「ありがと芥川くん(ろくにしゃべったことないけど)」
「俺は面白かったわ」
「それにしても、あの素直で正直者な鳳くんが案外演技派だったことに私はびっくりしたよ」
「…だって俺は本気、でしたから」

「…おい今のどういうことだ長太郎、名前も頬を赤らめるな!」


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