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テニス部のキングであり氷帝学園のキングでもある跡部景吾は並べてならぬ金持ちであることを今身を以て感じています。椅子は今日もやわらかいです。
百歩譲って、椅子がやわらかくて座り心地が良いのは認めます。だって椅子はくつろぐためだけに作られたものだもん。でも今私が体重を預けているこの椅子は車という主体の単なる付属品であって、すなわちこの椅子が多少座り心地が悪くとも「ああ車だもんね」で済ませてしまえると思うのでしょうがいかがでしょう。それに杞憂に違いないのでしょうが、こんなにも付属品に力を入れてしまっていては車を構成するエンジンなんかは適当になっていたりして、なんて勘ぐってしまうのは許してください。それならうちにあるキャンピングカーはなんなんだって話になったらそれこそ私はあなたを論破できる自信がありません。メーカーにお問い合わせください。
もっともペーパードライバーである父以外誰も免許なんて持っていないのになぜキャンピングカーを買ったんだ?ほら、あほが金を持つとろくなことにならない。キャンプごっこに参加してしまう私も然り。だって焼肉おいしい。

「おいてめえ寝てんのか?」
「…!!おはよう!あ、うそ!!寝てない!!寝てない間違えた!!」

私はどうも長考するくせがあるらしく、授業中もよく寝てると勘違いされ当てられまくる。損な性格。でも今は授業じゃないんだし、仮に寝てたとしても怒ることはないんじゃないかな。どっかりと隣に座る跡部くんにほっぺたをつねられる。よく伸びるよ。まだまだ伸びるよ。…あっ、それ以上は無理だって。跡部くんはそんな私の様子を見て鼻で笑った。
跡部くん家の車に乗せられるようになってから今日で五日目。だいぶこの無駄にふわふわした座席にも慣れてきました。登校中、転んだ拍子に脱げたローファーを野良猫に持っていかれ片足立ちで途方に暮れていた間抜けな私をクラスメイトの跡部くんが車に放り込んだのが事のはじまりでした。…あの猫この間ママが欲しがっていた猫に毛色が似ている。うん、今度見かけたら私のローファー持って行った罰として家に来てもらうとしよう。そうしたら名前はどうしよう。コナンとかどうかな。

「おい苗字」
「…!!!おはよう!!……ハッ!!」


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