「…っ」
口の中を思い切り噛んでしまい、顔をしかめた。嫌な鉄の味が広がる。
「どうした?」
バーティミアスに聞かれて、眉間にシワを寄せたまま、噛んだ、とだけ答えた。全く、かっこが悪い。
「不味い」
ナサニエルはそれだけ言うと、洗面所に行こうと立ち上がる。
「何処に行く?」
「洗面所」
バーティミアスの問いに、振り返らずに答えた。廊下に繋がる扉を開けようとしたとき、突然背後に気配を感じて、今度は振り返る。しかし、言葉を発する前に、唇が塞がれた。
バーティミアスの舌が否応なしに、ナサニエルの口腔に侵入してくる。さっき噛んだ場所に触れられて、ナサニエルはびくりと身体を震わせた。
「っつ、ばっか…」
ナサニエルがバーティミアスを引き剥がした。微妙な味になったことに、さらに眉間のシワを深くする。
「血の味がする」
バーティミアスが唇を舐めながら言った。その姿があまりにも妖艶過ぎて、ナサニエルは思わず視線を反らす。
「…当然だ」
そっけなく呟いて、ナサニエルは引き返した。洗面所まで行く気が無くなってしまった。
「不味いだろう」
「別に、何とも。まぁ、普通の人間よりはよっぽど美味いな。なんせお前のだからな、ナサニエル?」
バーティミアスの台詞に一瞬狂気じみたものを感じて、背筋が伸びる。しかし、同じくして、バーティミアスになら、と思っている自分も居た。
「吸血鬼か、お前は」
「お前だけの、な?」
耳元で囁かれて、ナサニエルは赤面する。小さく唸ってから、バーティミアスの胸に顔を埋めた。