「ですが、そこは譲れません」

そう言いながら、ナサニエルは黒いナイトを一つ進めて、白のルークを拐った。

「貴方は甘いのよ」

ウィットウェルもビショップを五つ進める。会話に進展がなければ、ボードにも進展がない。ナサニエルはボードを見つめて、ティーカップに口付けた。

「そういうわけではありませんよ」
「どうかしらね」

ナサニエルがポーンを進めると、ウィットウェルはクイーンを前に二つ進めた。黒のポーンが一つ拐われる。

「悪魔と協力しようだなんて、冗談じゃないわ」

自分の立場が分かってるの?と聞いた、ウィットウェルの不機嫌な顔が、暗闇の中の灯りに照らされた。

「分かっています。だからこそ、協力すべきなのではないか、と私は思うのです」

ナサニエルは静かに言って、ルークを三つ進める。カツン、と駒を置く音が静まり返った部屋に響いた。

「あり得ないわ」
「そうでもありません」

きりっと言い放ったナサニエルの言葉に、ウィットウェルは眉間にシワを寄せる。ナサニエルは紅茶を飲もうと、ティーカップを上げた。しかし、カップは軽い。ナサニエルは小さくため息をついた。

「もう一杯要りませんか?私が注いできますよ」

ウィットウェルは手で要らないというそぶりを見せる。

「では、少し失礼します」

ナサニエルは席を立って数歩歩くと、思い出したように振り返った。

「あぁ、ちなみにチェックメイトです」

ふっと楽しげに目を細めて、さっさと扉の向こうに消えて行く。モノトーンのボードの上では、黒のクイーンとナイトとビショップが白のキングを追い詰めていた。




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テーマ「人外ファンタジー」
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