※フェイキとバーティは擬人化済み
※容姿についての表現は無し
フェイキアールが俺の傍に寄ってきて、ぐしゃりと俺の髪を撫でた。
「何だよ?」
「…いや、何でもない」
何でもないわけがない。フェイキアールがこんなことをするはずがないのだから。俺がムッとして、少し高い位置にあるフェイキアールの顔を見上げると、ヤツはやけに穏やかな表情をしていた。
「何か、いつもに増して気持ち悪いぞ」
「いつもに増してとはなんだ。それに、私はいつも通りだ」
淡々と返されて、俺は眉間のシワをさらに深くした。
「いつも通りのお前なら、突然やって来て、突然撫でたりはしないだろう」
「そういう気分だったんだ」
どういう気分だ、と突っ込みたくなるのをこらえて、俺は腕を組む。今日のフェイキアールは全く意味が分からない。まぁ、普段から俺には理解し難いが。それにしても、今日は可笑しい。もちろん、フェイキアールに優しくされたり、触れられたりするのは、嫌ではない。だが、突然されると調子が狂ってしまう。
「何を悶々としているのだ?百面相して…」
「…俺は100以上に変身できる」
そういう意味じゃない、と言われて、分かってる、と返した。ほら、冗談も不発だ。
「私が変だと言うなら、お前も変だぞ、バーティミアス」
「俺は変じゃない」
俺は組んだ腕をといて、フェイキアールの肩に頭を預けた。こうすれば、表情を見られずに済む。俺はため息をついて続けた。
「調子が狂うんだよ。急に優しくされたりすると…」
「私だって同じだ。お前に悩む姿は似合わない」そう言って、フェイキアールは俺の頭に手を回す。全く、これだから駄目なんだ。この優しい温もりが愛しすぎて仕方ない。俺は、完全にフェイキアールに捕らわれている。
「早く解放してくれ、私の心を」
ポツリと呟いたフェイキアールの言葉に、俺は顔を上げた。まっすぐに俺だけを見つめるフェイキアールの瞳と目が合う。
「いや、逆か。…離すなよ、私の心を」
ふっと笑ったフェイキアールに、俺は少し背伸びをして、フェイキアールの額に自分の額をぶつけた。
「離しはしないさ。俺も、お前に捕らわれている」
俺がにたりと笑うと、フェイキアールもゆったりと口角を上げる。
「先に捕らわれたのは、私かお前か…どちらだろうな」
左の手で、頬を包みこまれた。それでも俺は、フェイキアールから目を離さなかった。
「さぁな。どっちだっていいさ」
互いに探るような視線を絡めた後、どちらからともなく口付けた。フェイキアール、お前になら俺は永遠に捕らわれたままでもいいかもしれない。