ナサニエルはぼーっとして宙を仰いだ。久しぶりの休日は、今まで忙しく過ごしていたナサニエルには、何をして過ごせばいいのか分からなかった。本を読んでもいいと思ったが、仕事のことを考えてしまいそうだったし、そういう気分でもなかった。かといって、何をするわけでもなく、ぼーっとしているというだけも暇で暇で仕方ない。バーティミアスでも居ればいいのだが、生憎、今は仕事に出している。ため息を一つついても、時間もあまり多くは進まない。今は、とにかく話し相手が欲しかった。一人でいると、ついいろいろなことを考えすぎてしまう。そう思って、ナサニエルは占い盤を取り出した。

「やっほー!やっとボクを解放してくれる気になったんだね!嬉しいよ!」

赤ん坊インプは、顔が画面いっぱいになるまで近寄って、にんまりと笑う。ナサニエルはそれを無視して、淡々と言った。

「僕の話し相手になれ」

この赤ん坊インプも、バーティミアスと出会う前からの付き合いだ。バーティミアスとは違った意味で、飾らなくて済む、数少ない妖霊だった。

「何でまた…どうしたのさ。バーティと喧嘩でもした?」
「何でもいいだろう。口答えするな」
「仕方ないなぁ。で、何の話をするの?」
「…それは、お前が決めろ」

何でもいいんだね、とインプはニヤリと笑う。嫌な予感がしたが、ナサニエルはあえてつっこまなかった。

「じゃあさぁ、質問いい?」
「答えられることにしか答えないから」
「いいよ、別に」

ナサニエルは無意識に少し身構えた。

「まぁ、さっきの続きみたいなんだけどさ、今日はどうしちゃったの?いつもなら、寄り添うようにバーティが居るのに。しかも、ボクが話し相手にならなきゃならなくなったんだ」

ナサニエルはその問いかけに、思わずきょとんとした。変なことを聞かれたら、罰を与えればいい、とそれくらいのことを考えていたのに。ナサニエルはため息をつくと、ゆっくり顔を上げた。

「今日は仕事に出している。本当は今日は僕も仕事だったから、会えないくらいの方が良かったんだけど、急に休みになったから、仕方なかったんだ。だから、別にバーティミアスと喧嘩をしたわけではない」

ふーん、と興味なさげにインプは答える。

「別にのろけを聞きたかったわけじゃないんだけどね。…ねぇ、バーティになんか伝言してあげようか?」

インプの提案にナサニエルはすぐに頷いた。ナサニエルが一言だけ告げると、インプは鏡の中から姿を消した。

‐‐‐
※インプside


まったく、何が「出来るだけ、早く帰って来い」だよ。ボクだって、そんなことなら伝えるのどうしようかと思っちゃうよ。でも、それならそれで、もっと遊んでやろうかな、とも思う。

「やぁ、バーティ」
「何だ、お前か」

ボクは、ご主人サマ愛しの彼を見つけると、さっさと声をかけた。

「我らがご主人サマから、伝言だよ」

ボクが笑って言うと、彼はムッと眉間にシワを寄せた。そんなに警戒しなくても、気分が悪くなるような悪戯はしないから安心してくれて構わないのに。

「小僧が俺に伝言なんてするわけないだろ」
「それが、しちゃうんだよねー。ねぇ、聞きたくない?ま、仕事の話しじゃないよ」

彼は周りの様子とボクを交互に見てから、小さく頷く。さぁ、今日はちゃんとした命令じゃないんだもん。楽しんじゃうよ。

「あのね、“バーティミアス、早くお前に会いたい。早く帰って来い”だってさ」
「小僧がそんなこと言うはずが無いだろう」

即答された。なんだ、バーティもマンドレイクも相思相愛なんじゃないか、つまらない。別に、知ってたから構わないけど。

「…俺のも伝言、しろ」

鼻歌を歌いながら、彼の周りを飛んでいたら、彼が呻くように呟いた。

「伝言ねー。いいよ」

はいどうぞ、とボクが言うと、彼は少し考えた様子を見せてから、ゆっくりと口を開く。

「世界で一番お前を愛してる。すぐに帰るから、待ってろ」

さすがのボクもフリーズした。今、歯が浮くようなセリフを聞いた気がするんだけど…えーっと、全力で気のせいだと思いたいな。

「もう一回、いい?」
「どうせ、お前は言った通りに伝えないつもりだろう?」
「それなら、ちゃんと伝えてあげるよ」
「なら、さっさと行け。もう言わん」

手で追い払う仕草をされて、ボクは仕方なく空に飛び上がった。全くもう。ボクはこんなことしたかったわけじゃないのに。最初にマンドレイクにした提案を少なからず後悔した。

‐‐‐
※ナサニエルside

やることもなく、仕方なく仕事の書類に目を通していると、占い盤から声が聞こえた。持っていた書類を机の上に置いて、占い盤を除きこむ。

「ちゃんと伝えてきたか?」
「うん。それでね、バーティから伝言だよ」

そう言われて、心臓がばくんと跳ねた。出来るだけ冷静なフリをして、なんだ、と聞く。

「“世界で一番お前を愛してる。すぐに帰るから、待ってろ”だってさ」

インプがなんだか冷やかしていたが、正直、聞こえてなかった。早くその言葉をバーティミアスの口から聞きたくて仕方ない。心臓がいつもよりも早いビートを刻む。

「もう、話し相手はいい」
「ついでに解放してくれたらいいのに」
「そのうち、考えておく」

やったー、と言うインプの声が徐々に小さくなる。ナサニエルはつくと、上に置いた書類を手に取った。その表情には、小さく笑みが浮かんでいた。



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