「ここから、遥か東方に行った国には、桜が咲き誇り、地面を被いつくすほどの花びらが降り注ぐ。そんな光景、見たことないだろう」

藤の椅子に腰かけたナサニエルは、遠い国に思いを馳せるように、バーティミアスの言葉に世界地図を見た。

「見たことはないが、聞いたことはある」
「また、その国には緑色の桜も咲いているんだぞ」
「それは、知らなかった…」

へぇ、とナサニエルはバーティミアスを見つめる。得意げな笑みを浮かべて、腕を組んでいるバーティミアスを見ていたら、何故か笑いが込み上げてきた。

「何だよ。何か可笑しかったか?」

ナサニエルは、何でもない、と言ったが、納得出来ないらしいバーティミアスは、幼子のようにムッとして口を尖らす。

「でも、緑の桜か」

ナサニエルがぼーっと呟いた。緑の桜なんて初めて聞いた。薄桃色の中にポツンとある緑色の図を思い浮かべて、その姿が何故か自分と重なってしまった。自分はみんなとは違う。一人ぼっちなんだ。開け放した窓から、強い風が吹き込む。風と共に何枚かの桜の花弁も一緒に迷い混んでいた。その一枚を手に取ったバーティミアスが口を開いた。

「お前が何を考えてるかは知らんが、俺は一人ぼっちでも強く負けずに主張する緑色の桜のほうが好きだな。お前に似てるからかな?ナサニエル」

ナサニエルは何も答えなかった。バーティミアスに自分の考えていることが分かっていた。どうしても、バーティミアスには敵わない。

「僕は、ジョン・マンドレイク。情報大臣で、お前の主人だ。でも、いつか、僕がナサニエルに戻ることが出来たら、緑の桜を見に、連れていってくれ」
「お前が望むところなら、何処へでも連れていってやる」

バーティミアスはナサニエルの手の甲にキスをする。何処からか舞い込んできた、緑色の花弁がナサニエルの机の上に乗っていた。



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