※ナサとプトレへ












町に出ると、どこにでも笑顔が溢れていた。幼い子供は両親に手を取られ、嬉しそうに今日の晩御飯をたずねている。その中で、俺は一人、背中を丸めて人混みを掻き分けていた。こんなにも平和な世界であるのに、俺の気分は沈むばかりだった。召喚による成分の痛みも、新しい気にくわない主人の存在もそうだが、なにより、大切な人を失ったという事実が大きくのし掛かっていた。長い時間を生きる俺が、一時の情に流されても仕方がないのだが、この想いはどうしようもなかった。好きで好きで仕方なかった。愛して愛してやまなかった。それなのに、俺は目の前でその手を離してしまった。…いや、その手を無理矢理離された、の方が正しいかもしれない。二度も同じような状況で、もう二度と会えなくなってしまったのだ。声が聞きたい、温もりを感じたい。
俺は、ふと空を見上げた。優しくない世界は、青を称え、眩しい日射しを降らせていた。俺がもう一度俯くと、光を反射するコンクリートが視界に広がる。その眩しさに、俺は思わず目を瞑った。

世界はこんなにも幸せだと言うのに
(この長雨はいつまで続くのだろうか)


君がいない5題/Chien11


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テーマ「人外ファンタジー」
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