「俺は、お前の為なら何処にでも行こう」

バーティミアスはナサニエルを見つめて言った。その瞳はどうしても嘘を言っているようには見えない。それでも、素直になれないナサニエルは、バーティミアスから瞳を反らした。

「俺は、本気だぞ?」
「別に、お前が嘘をついている、なんて誰も言ってないだろう」

ナサニエルは、書類に手を伸ばしながら呟くように返事をする。ナサニエルには、バーティミアスの気持ちが、痛いほど嬉しかった。ここまで誰かに想われたのは初めてのことだった。もちろん、ナサニエルが誰かをここまで想ったのも初めてのことだ。

「お前の為なら、火の中だろうと、どんなに辛いところにでも、すぐに駆け付けてやる。だから、何かあったらすぐに俺のことを想え」

思わず、ナサニエルの書類を読む手が止まった。強引な言い方ではあるが、優しさを含んだ言葉。ナサニエルは自分の心臓が大きく跳ねるのを感じた。心拍数が上がるのと同じくらいのタイミングで、バーティミアスがそっとナサニエルに近づく。ナサニエルは、自分の心中を察してしまわれるのが照れくさくて、慌てて口を開いた。

「そんなこと、姿を変えられるお前なら、簡単に出来るだろう。それにお前はもともと火と空気の妖霊だ。それくらい出来て当然だろう?」

そう言ってしまってから、ナサニエルは少なからず後悔をした。もう少し、可愛いげのある台詞は出てこないものかと、ひねくれた自分の性格を呪った。しかし、バーティミアスは全てを察しており、優しくナサニエルの髪に触れる。

「お前の言う通りだ。でも、そう言うってことは、ピンチのときは、絶対に俺を呼ぶってことだな?」
「いや、それはない」

バーティミアスの問いに、ナサニエルは迷いなく答えた。これには、さすがのバーティミアスも驚いたらしく、ナサニエルの髪を撫でる手が止まっている。ナサニエルは頭を動かさないまま、書類を机の隅に片付けた。

「お前が、ずっと僕の傍に居れば、ピンチのときに呼ぶ必要も、お前が慌てて駆け付ける必要もない」

ナサニエルはバーティミアスに向き直って、淡々と述べた。

「まぁ、それもそうだな」

バーティミアスはニヤリと口角をあげると、ナサニエルの前に跪いた。そのままナサニエルの右手を取ると、その甲に口付ける。

「それなら俺は、永久に貴方の騎士でいましょう、ご主人様」

少しおどけて言ってから、椅子に座ったままのナサニエルを抱き寄せた。

「俺に、ずっと守らせてくれ、ナサニエル…」

さっきまでとは違う、切なげな声がナサニエルの耳元で囁く。真っ赤になったナサニエルは、ただ、無言でバーティミアスの首に腕を回した。





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