最近、本の続きが気になって、止めどなく読んでしまい、寝不足気味。目の下の隈も日に日に濃くなる。女性としてどうなのだろう。私はそっと自分の頬に触れる。乾燥してしまっている。今日はなるべく早く寝よう、でも続きも気になってしまう。こればかりはどちらも代役をしてもらうことが出来ない。

「パイパー、これを」

うーん、と考えを巡らせていたら、大臣が私の前にファイルを差し出した。慌ててファイルを受け取ると、上からくすっと笑う声が降ってくる。驚いて顔をあげると、大臣と目が合ってしまった。

「あ、ごめん」

大臣はすまなそうに言う。

「いっ、いえ…」

私はどぎまぎしながら返事をした。大臣の滅多に見られない笑顔を見てしまった。情報大臣ジョン・マンドレイクの笑顔は、一種の都市伝説になっていた。彼の笑顔を見られたら幸せになれる、なんて噂がまことしやかに流れていた。でも、大臣の笑顔を見たことがある人は居ないから、それが本当のことかどうかはわからない。けれど、実際に、私は今、幸せだった。少し幼く見える笑顔に、ついドキッとしてしまった。

「ファイルの書類、目を通しておいてくれ」
「わかりました」

よろしく、と大臣は一言言って、くるりと向きを変える。それから、召喚部屋に一目散。そうしたら、きっと大臣はしばらく帰って来ないだろう。私はふっとため息をついた。実は私は知っている。事実かはわからないけれど、大臣の秘密を。大臣は自分の召し使いに対して、何だかんだ言いつつも、誇りを持っている。特に、あのバーティミアスには、信頼、もしくは、それ以上のものがある。他人の前では二人とも、主人と奴隷の関係を繕っているけれど、大臣はバーティミアスの前でだけ、表情が少しだけ柔らかくなる。思い出して、ギュッと胸が締め付けられるような気がしたけれど、気付かなかったことにした。

「確認、しなきゃ」

私は仕事を思い出して、ファイルを手に取る。完璧なまでに綺麗にまとまったそれは、私が目を通すまでも無かった。非の打ち所のない大臣は、私にはとても手の届くような人ではない。憧れが恋心に変わることは決してあってはならない。私は、そっとファイルを抱き締めた。寝不足の隈は、まだ消えそうにない。




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テーマ「人外ファンタジー」
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