「あの、大臣…」

パイパーが躊躇いがちに、ナサニエルに声をかけた。口を開いたその顔は耳まで真っ赤だ。ナサニエルは少し首を傾げて、どうした、と尋ねる。

「えっと、その…首元の…」

そこまで言われて、はっとした。慌ててナサニエルは左手で左耳の下を押さえる。

「絆創膏、持ってる?」
「も、持ってます」

パイパーは自分の鞄を探って、一枚だけナサニエルに手渡した。ナサニエルは、ちょっと外すよ、とだけパイパーに断ると、左手で押さえたまま、給湯室まで走った。途中、ちらちらとすれ違った人に見られたが、とりあえず今はそれどころではない。肩で息をしながら、後ろ手に給湯室の扉をしめる。切れる息を整えてから、鏡を見て花弁が散ったように赤くなっているところに、絆創膏を貼った。他にも見えてしまうようなところに無いかを確認して、今度はゆっくりと給湯室を出た。

「まったく…」

歩きながらバーティミアスにつけられたキスマークに、絆創膏の上から触れる。見えるところには残すな、と言っておいたはずなのに。きっと帰って文句を言っても、言い返されて、収集がつかなくなるのだろう。ナサニエルは、はぁ、と息を吐いた。まぁいいかな。そう思ってしまってから、ナサニエルは自嘲気味に笑みを漏らす。

「ありがとう、パイパー」
「い、いえ…」

戻ってから、真っ先にパイパーに声をかけた。パイパーはナサニエルと目を合わせようとせず、ほんのり頬を赤らめたまま呟くような声で答える。

「今のことは、内密に」

小さな声でそう言ってしまった後、ナサニエルは少しだけ後悔をした。言うことではなかった。言わなくても、もうほとんど全員が知っていて、さらに尾びれも背びれもついて、噂が回りに回っているだろう。ナサニエルは大きなため息をついた。もう、なるようになるしかない、か…。一息着いてから、椅子に座って書類を手に取る。紅茶の入ったカップに口付けると、つかの間の休息を味わえる気がした。



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