※ネタは4巻
※ネタバレらしいネタバレは無い
あぁもう本当に、勘弁してくれ。俺は、アラム語でこれでもかというぐらいの勢いで、悪態をついた。ジリジリと焦がすような太陽は、落ちてきそうなほど近い。
「バーティミアス」
呼ばれた声に、俺は伸びをしながら振り返る。何だ、とフェイキアールに返すと、やつは真面目な顔で俺に聞いた。
「太陽が落ちたら、世界はどうなるのだろうか。我々はどうなる?」
一瞬の間。その次の瞬間には、俺は腹を抱えて笑っていた。あのフェイキアールがここまで追い詰められるのか、と思ってしまった。いや、もしかしたら、暑さにやられたのかもしれない。俺は込み上げる笑いを押さえる。
「もちろん、終わるさ。上手くいけば、解放されるかもしれないな」
そうか、とフェイキアールは妙に素直に言って、作業に戻った。
「そうだ、バーティミアス」
フェイキアールは手を動かしたまま俺に言う。
「太陽は神であったな」
「それはエジプトの話だろう」
「だが、信仰に場所は関係ない。太陽にすがったら、暑さが和らぐかもしれない」
「そう簡単にいくなら、祭司や生け贄なんて要らないだろう」
俺の言葉を無視して、フェイキアールは太陽に向かって手を広げる。俺は逆に下を向いて石を切り出す作業に戻った。本当にフェイキアールは暑さにやられたのか、実は素なのかもしれない。
「フェイキアール、」
「何だ。取り込み中だ」
フェイキアールの返答を聞いて、俺はため息をついてから、天を仰いだ。相変わらず、太陽は落ちてきそうだ。
「暑さは和がなさそうだぞ。ほら、さっさと作業に戻れ」
俺は太陽の光に目を細める。フェイキアールは渋々、作業に戻っていった。
「あぁもう本当に、勘弁してくれ」
俺は、アラム語やヘブライ語、思いつく限りの言語で悪態をついた。ジリジリと焦がすような太陽は、未だに落ちてきそうなほど近い。