俺は、初めて誰かを心から幸せにしてやりたいと思った。ナサニエルが幸せになれるなら、どんなこともいとわない。そう思えるほどに。主従関係なんて、どうでもいい。俺は小僧の本名を知っている。俺とナサニエルの関係は、対等だ。そして、俺はナサニエルを愛している。だからこそ、幸せになってほしい。
「分かるか?」
俺はナサニエルにたずねた。小僧は、あぁ、と空返事をする。
「分かってないだろう」
「いや、分かってる」
「嘘だ」
小僧は、嘘じゃない、と静かな声で言った。その声にドキリとして、俺は宙を仰ぐ。出来ることなら、俺の手でナサニエルを幸せにしてやりたい。俺はナサニエルに向かって手を伸ばした。
「…何?」
「俺が、お前を幸せにしてやりたい」
ナサニエルはじっと俺を見つめて、俺が伸ばした手を掴み返した。
「僕は、お前の傍に居ないと幸せになれない」
俺はぼーっとナサニエルを見つめ返す。
「だから、僕を幸せに、しろ…」
俺と目が合うと、ナサニエルは慌てて目をそらした。それと同時に俺の手を掴んでいる手に力がこもる。俺はナサニエルの手ごと、腕を引き寄せた。
「…ナサニエル」
「なん、だ…?」
ナサニエルが俺を斜め下から見つめる。俺はナサニエルの手を繋ぎ直した。
「俺だけが、ナサニエルを幸せにしてやれる。俺が、ナサニエルを、世界で一番…いや、生きている全てのものの中で、一番、幸せにしてやる」
ナサニエルが幸せになるためなら、俺は何でもしよう。俺はナサニエルの手の甲に口付けた。